第14話 道理がいかん

文字数 699文字

 天正6年(1578年)7月。荒木村重は羽柴秀吉と共に播磨の大名別所長治を討伐せんがため三木合戦に従軍していた。しかし、突如戦線を離脱し、有岡城に帰還した。信長に謀反を起こすためである。
 信長はすぐには討伐軍を挙げず、一旦明智光秀を有岡城に派遣し状況を探らせる。光秀の娘が村重の嫡男に嫁入りしていたため、真相を掴むには適任と考えたのであろう。
 村重に面し光秀は説いた。天下人に背いて勝ち目はない。いまなら上様もお許しくださる。さらに村重と交流厚い高槻城主高山右近も翻意を促す。これら説得が功を奏し、一旦は村重、詫びを入れるため、信長の居城安土へ向かった。
 ところが、その道中、茨木城主の中川清秀から、
「行ってはなりませぬ。行けば間違いなく切腹させられる」
 と説かれる。さらに、
「それよりも、毛利、本願寺と手を結び、挟撃した方が殿にとって旨味がござります」
 と諭される。
 これに村重は靡いた。再び有岡城に帰城している。
 野村孫太夫は小猿とも木猿とも相通じていた。伊賀忍者は互いの胸の内を易々と明かしはしないが、孫太夫は小猿と共に忍術修行をした仲であり明かさずとも小猿の考えていることは理解していた。
 その孫太夫が言うのだ。
「中川清秀の進言と申しますが、小猿が清秀にそう言わしめたのでござりまする」
 藤林保正が呟く。
「幻術か?」
 いまでいう催眠術に近いものである。
「仰る通り」
 しかし、服部正成は納得しない。
「道理がいかん。何故(なにゆえ)明智と通じている小猿が明智の説得とは逆に村重を唆す。しかも明智の娘が嫁いだ荒木家を何故(なにゆえ)窮地に追い込む?」
 孫太夫は言った。
「明智を使うつもりでしょう」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み