第12話 光秀とも通じておるようでござりますな

文字数 542文字

「またも失敗であったか・・・」
 信長暗殺の失敗の報を受け、百地丹波は小さく首を振り唸った。木猿の犠牲は大きいが丹波はそれを口にしなかった。犠牲は忍者にはつきものである。情けは無用である。
「して、小猿は?」
 帰郷せぬ小猿の方に丹波は不審を抱く。
 報を持ち帰ったのは伊賀忍術十一名人、野村孫太夫。孫太夫は片膝をついて言った。
「しばらくは戻らぬかと」
「どこへ?」
 丹波は出奔を疑っている。孫太夫はそんな丹波の心も読み切って呟く。
「信長を追って有岡城へ」
「有岡?」
 丹波の表情が曇る。
 信長は相撲大会の後、謀反を起こした荒木村重を討伐せんがため、摂津国の有岡城へ向かっている。
「ひとりでか?」
「は。息子の仇を討つとか」
「愚かな・・・」
 木猿の凄惨な死を知った孫太夫は伏見で小猿と落ち合ったが、有岡城に加勢するという小猿を孫太夫は引き留められなかった。
「しかし何故(なにゆえ)、急に村重に?」
 確かに信長に反旗を翻した荒木村重を伊賀としては同朋としたいところではあったが、力の差があまりにも歴然であった。故に百地丹波はじめ上忍三家は荒木村重に与するつもりはなかった。が、小猿は単独村重方に加担した。
 野村孫太夫は上目遣い声を落として言った。
「小猿はどうやら光秀とも通じておるようでござりますな」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み