第32話 背後に甲賀忍者の影を見た

文字数 703文字


「いや、そういう取り決めだったはずじゃ。我らは西方から摂播五泊の大輪田泊(神戸市兵庫区の港)と河尻泊(尼崎市神崎町の港)に兵糧運び入れ花隈城と尼崎城を援軍いたす。一方石山は東から有岡城を扶持いたす。そういう密約であったろう?」
「一切存じませぬ」
「不思議な。ならば荒木殿は石山にはどう話されておったのじゃ?」
「無論、援軍を要請しておりました」
「で?」
「来ませなんだ」
「それはおかしな。石山が約束を反故にしておる」
「されど、桂殿にも度々援軍を要請いたしました」
 村重は言って、脇に控えていた小猿、小太郎、衣茅を一瞥した。
「確かに。しかし、見てくだされ。この手勢で尼崎を守護しておる最中、兵糧はまだしも兵など出せましょうか? 我らは安芸から水路はるばるやって来ておるのですぞ。それは本軍を目と鼻の先に擁す石山の役目でござろう」
 そこで村重は言った。
「滝川一益ではござらぬか」
「滝川?」
 元綱の視線が泳ぐ。
「滝川一益に有岡城への兵糧を堰き止められていると伺いましたが、聞けば毛利軍は滝川の来襲に無抵抗で中継の砦を明け渡したとか」
 小猿から聞いている。衣茅の探ったところによると桂元綱は滝川一益からの調略を受けている。密かにかなりの金子(きんす)を受領しているとも・・・。
 元綱の目が血走っている。
「それは事実と異なる。我が軍は滝川とは対峙しておらぬ。有岡には石山が届けることになっておったはずじゃ。その兵糧を我が軍は猪名川砦へ運んだまで。以後のことは一切存ぜぬ」
 これを聞いていた衣茅は呟く。
(脅されている・・・)
 桂元綱の背後に甲賀忍者の影を見た。毛利本軍に知られてはならぬ内通を、元綱は必死に隠そうとしていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み