6章-7

文字数 915文字

「ちょ、ちょっと待って。あなた、本当に雄太なの? って、なにこれ? こんなの私、初めて……」

 薄明かりの中、美帆の表情に苦悶の色が現れた。が、それも束の間、すぐに美帆は恍惚(こうこつ)の表情へと変わり、これまでにない反応を見せた。しばらく両手で頭をかきむしると、せがむかのように両肘に体重をかけて腰を浮かせた。

 声も、吐息のような生易しいものではなく獣の咆哮だ。「まぐわる」というのは、こういう状況を表現するために生まれた言葉に違いない。雄太と美帆は、男と女ではなく、雄と雌になっていた。

 雄太が浮いた腰を両手で支え、ほぼ水平の姿勢で律動を繰り返すと、やがては美帆の半開きの口から頬にかけて透明の液体が一筋の川を作り、眼球が焦点を結ばなくなった。もはや気絶寸前の美帆を見ながら、雄太は肉体的な快楽以上に、自分の支配欲が満たされていく感覚と、完全に美帆を取り戻すことができた安堵に包まれた。

 美帆は、声を張り上げる力も失い、とっくに昇りつめているのに、そのエクスタシーを継続させたい一心で、遠のく意識に必死にしがみついている。金魚のように口をパクパクさせながら、なにか単語を連呼していた。それがなにかは雄太には聞き取れなかったが、雄太は雄太で限界を迎えていた。男と女の音がするたびに、じわりじわりと膨張率を高めていた渾身ももはや限界だ。後は、はじけるのを待つだけとなった。

(お前はたいしたもんだ)

 雄太が、左手の薬指の指輪に視線を落として心中呟くと、それを合図に脳から点火命令が下された。雄太がカウントダウンに入る。そして、高声を上げて雄太が発射をしたその瞬間、美帆が彼の二倍以上の絶叫で口走った。

「秀吉!」

 そして、美帆の意識が飛んだ。

 雄太は、美帆から体を離すと、脚を開いたまま気を失っている美帆を見詰めた。見ようによっては、恋人のそんな姿ほど美しくも官能的なものはこの世には存在しまい。しかし、支配欲で膨らんでいた胸は風船に穴が開いたようにしぼんだ。

(美帆の奴……。いく瞬間、三田の名前を叫びやがった……)

 雄太の心は、上から圧力をかけられた粘土細工のように潰れた。

 グシャリ。
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