3章-5

文字数 701文字

「お姉さんの悩みが過去のものなら、『辛いメモリー抽出マシン』でコーヒー豆にしちゃえばいいから簡単なんだけど、現在進行形となるとそうもいかないわね。で、どんな悪夢?」

 ヨーコの診察が始まった。マスターは、タバコに火をつけると、興味深そうに二人の様子を眺めていた。

「どんな、って……。けがらわしい、と言うか、とにかく怖い夢」
「怖い? ひょっとして幽霊?」

 千夏はかぶりを振った。
「幽霊なんて、私信じちゃいないわ」
「へえー、お姉さん、現実主義者なんだ。となると、結論は一つね」

「え? もうわかったの」
「うん。そんなの簡単よ。この世で幽霊より怖いものっていったらあれしかないもの」

「あれ?」
「そう。人間よ。人間ほど怖いものはこの世にはないでしょう」

 質問に答えているだけで、話が徐々に核心に近付いてくる。

「で、夢に出てくる人間は男? 女?」
「え? あ……、男」

「その男は、夢の中でお姉さんになにをするの? なぜ、その男が怖いの?」

 ヨーコは、いとも簡単に核心にたどりついた。もしかしたら、本当に人の心が読めるのかもしれない。そう思うと、千夏はなおのこと、その質問に答えるのがはばかられた。

 束の間、無言の時が流れ、千夏はうつむきながらコーヒーを飲んでいたが、マスターがその静寂を裂いた。

「ひょっとして……、レイプですか?」

 千夏とヨーコは、同時に目を丸くした。すぐさま、ヨーコが口を開く。

「なんか、話の展開が十八禁っぽくなってきたんだけど。私、聞きたくないから、あとは二人で続けて」

 ヨーコは、二人から少し離れて丸椅子に腰掛け、背中を向けた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み