6章-1 ひとりぼっちのあいつ ~リプライズ~

文字数 683文字

 ハラリ。

 雄太は、またこの音を聞いた。自分の心が剥がれる音だ。

 こともあろうに親友の田川を、こともあろうに恋人の美帆に殺害させてからというもの、雄太の心は薄皮を剥がすかのようにその厚みを失っていった。

 雄太は、コマンドメールを受け取ったとき、その文面からビートルズの『ひとりぼっちのあいつ』を連想した。

 そして、皮肉なことに、今の雄太はまさしく「ひとりぼっちのあいつ」であった。特に、仕事を終えて自室に戻ったその刹那に襲ってくる巨大な孤独感は、雄太に恐怖と絶望を与えた。

 ハラリ。また音がした。

「お前は殺人者だ。しかも、自分の手を汚さずに恋人に親友を殺させた人非人だ」

 しゃがれた囁きが頭蓋骨に響く。田川の亡霊か。はたまた、自分の意識が脳内で作り上げている声なのか。休むことを知らずに飛び回る蝿のような不快な声だ。

 かといって、誰に相談をすることもできなかった。この苦しみを和らげられるのは美帆だけである。しかし、その美帆のために自分は苦しんでいるのだ。

 美帆は、田川の殺害後、一時的に気落ちはしたが、今ではすっかりと元気を取り戻している。否、前にも増して幸福そうだ。三田秀吉との浮気も、まだ恋人にばれていないと楽観している。

 そもそも、美帆が浮気などしなければ、こんな惨苦(さんく)(さいな)まれることはなかった。だが、その張本人は快活に清涼な毎日を楽しみ、一方で自分は「ひとりぼっちのあいつ」でじめじめとした陰湿なときをかろうじてやり過ごしている。このあまりの対比を思うたびに、雄太の心はまた薄くなる。

 ハラリ。
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