2章-1 ビター&スィート
文字数 1,241文字
(これであいつとの関係もおしまいだ)
これまでに数え切れないほど衝突を繰り返してきたが、今日の喧嘩は格段に酷かった。二人の口論はなじり合いとなり、気付いたときには怒鳴り合っていた。隆は、思わず手が出そうになった。その振り上げた右手に気が付いて、隆は彼女の部屋を出た。週に数回は通っていた恋人の部屋。そこに充満する“異臭”に、隆の我慢は限度を超えた。
彼女から逃れたい。彼女を排除したい。
それ以外のことを思考する余地は残されていなかった。駅まで一目散に走って電車に飛び乗っても、どこへ向かうのかも認識できていなかった。だが、目に飛び込んでくる中吊り広告、耳に飛び込んでくる車内アナウンスが、わずかずつ隆の頭を冷やしていった。隆は、二駅ほど過ぎたところで状況を把握し、考えを巡らせた。
(うーん。まだ、とても自宅に帰る気分じゃないな……。よし。次の駅で降りたらスナックでも探すとするか)
駅前には商店街があった。人影もまばらで、繁華街という雰囲気ではなかったが、商店に挟まれるように所々にスナックのネオンが光っていた。隆が必要としていたのはアルコールであり、酔いだった。まだ、先ほどの怒りが収まったわけではない。酒さえ飲めれば、スナックなどどこでもいい。妙齢の美人ホステスも、熟れたママも欲していない。
隆は、なにも考えずにとあるスナックに足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
ホステスの快活な声が店内に満ちる。隆は、その歓待を受けて、しまった、店を間違えたかと後悔した。四人用のテーブル席が六つ。そこに座るとホステスが付き、当然、彼女達は客の
(うーん。店を変えるか……)
そのとき、右奥に椅子が五脚しかない狭いカウンターがあることに気付いた。テーブル席はそれなりに賑わっていたが、そこだけは閑散としていた。カウンターの向こうでは、いかにも寡黙そうな髭面のマスターがパイプをふかしている。
(お、これは好都合だ)
隆は、迷わずにカウンターに腰掛けた。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「強いの頼みます。あ、テキーラにしようかな」
「テキーラですね。少々、お待ちください」
(今夜は飲むぞ。酔い潰れるまで飲んでやる)
急ピッチで酒を喉に流し込む隆を見ても、マスターはなにも言わなかった。普通なら、そんな客の所作はたしなめるであろう。泥酔でもされたら店にとっても迷惑千万だ。だが、隆の酩酊が始まっても、マスターは黙々と言われた酒を出し続けた。
隆は、火傷しそうに熱くなった目の