6章-3

文字数 703文字

「どうしたの? 雄太。ひょっとして、もう私とは……」

「違う! 違うよ、美帆。つ、疲れてるんだ。でかい仕事を任されて、もう心身ともにくたくたで、それで……」

 水面に波紋が広がるように、雄太の顔に動揺が広がっていく。

 その日、思い出せないくらい久しぶりに雄太は美帆を抱いた。髪にキスをすると、大好きなシャンプーの残り香が鼻腔を撫でた。懐かしい匂いに、胸の真心(ましん)からぬくもりが指先にまで広がる。滑らかな肌。弾力のある肉。雄太は夢中で美帆を貪った。

 が、肝心な場面になった途端に、雄太の分身がその機能を放棄した。「心身ともにくたくた」。これは嘘でも言い訳でもなかった。実際、コマンドメールを使って以来、雄太の心は片時も休まることがなかった。

 でも、こんなにも愛おしい美帆が、淫靡に開いた口から甘い吐息を漏らすその表情が、疲労に負けるはずがない。雄太が負けたのは、頭の片隅に巣食う美帆の浮気相手、三田の存在であった。

(三田は、どんな風に美帆を抱いているんだろう? 美帆は、当然三田との営みには満足しているんだろうな……)

 そんな思いが去来したが最後、雄太の分身は硬直することを拒んだ。

「ごめん。ごめんよ、美帆。次にくるときまでには、もっと元気になるから」

 だらしなく、膝立ちで目の前で手を合わせる雄太を見て、美帆の頬の肉が軽蔑交じりに動いた。

「まあ、いいわ。さっきまではいい気分だったんだけどね。でも、私も今日は萎えちゃった。『これ』みたいにね」

 言って、美帆は萎えた雄太の「それ」を人差し指で弾いた。

 雄太は、パチン、ではなく、別の音を聞いた。

 ハラリ。
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