4章-9

文字数 402文字

 その日の夜。

 直人が、“その時”を待つかのように、ベッドに身を横たえていたら、ダルマの声がした。

「直人くん。ボクの右目を塗ってくれ」
「ということは……」
「うん。そういうこと。今、感じた」

 直人は、マジックを持ってダルマに近付いた。
「きみともこれでお別れなんだね」

「うん。直人くんが右目を塗り潰したら、ボクは逝くよ」
「世話になったね」

「どういたしまして」
「ありがとう」

 直人は、マジックの蓋を外した。
「さようなら。百パーセント合格ダルマ」
 そして、右目を入れた。

 十ヵ月も自分の鼻を覆っていたダルマの鼻が、顔から外れてぽろりと床に落ちた。

 同時に、子ダルマの左目を入れた井上の顔が脳裏をよぎった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 階下では、狂気に満ちた息子の高笑いに、母親が亭主に問い掛けた。

「ねえ、あなた。直人、都清大学に合格したのがそんなに嬉しいのかしら?」
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