瑠莉 (第3中継所にて)
文字数 1,617文字
一方その頃、4区のランナーを乗せたフェリーは、八景島中継所へと向かっていた。
船の地下には練習用のトラックがあり、選手達はそこでウォーミングアップができるようになっている。
アップに向かう前に、茉莉がかかんで靴紐を結んでいると、何やら無遠慮な足音がアイリスの陣地に近づいてきた。
瑠莉
「なーんだ、あの1年生ちゃんが良かったのに。」
茉莉
「おーこれはこれは、瑠莉殿ではありませんか。わざわざ丁寧に、ご挨拶まで。」
茉莉が"瑠莉殿"と呼んだその女性は、ローズ大学期待の1年生ランナーであり、茉莉の3つ下の妹でもあった。
瑠莉
「遅くなったお姉ちゃんに勝っても、何の面白みも無いわ。
こないだの記録会だってエントリーすらしてなかったみたいだし、てっきりもう引退したのかと思ってた。」
瑠莉
「…私、速くなってるわよ。
たくさんの観衆の前で、妹に抜かれる姉の姿をさらしてあげる。
怪我明けだろうが容赦しないから!」
茉莉
「いやはや、手加減にはおよびませんゾ?
このまま気持ちよーく、先頭を走らせていただく所存であります。」
去ろうとした瑠璃が、もう一度茉莉のほうを振り返った。
瑠莉
「...あとそれから! その喋り方、いい加減どうにかしたら!マジでダサい!」
そう言い残すと、瑠莉は今度こそ背中を向けて去っていった。
瑠莉
「(試合前だってのに、飄々としちゃってさ。変わってないわホント…昔から。)」
母
「すごいすごい!また今年も1位よ、お姉ちゃん!」
友達の母
「あら、茉莉ちゃん今年も一等賞?勉強もスポーツもできてホントに羨ましいわあ!」
茉莉がゴールから母親のいるほうに向かって満面の笑顔でピースしている。
父
「はぁー、大丈夫かなー大丈夫かなー。心配だなー心配だなー。」
幼き日の茉莉
「瑠莉ーーーーー!がんばれぇーーーーー!」
そんな瑠莉を、姉の茉莉は誰よりも大きな声で応援した。
しかし結果はぶっちぎりの最下位。瑠莉は6等のところに並び、座りこんで泣いてしまった。
幼き日の瑠莉
「わたし、グスン、お姉ちゃんみたいになりたいのに、・・・・・・ドジばっかり・・・、グスン・・・」
姉の声がして顔を上げた。
しかし目の前に立っている人物は瑠莉の知っている姉とは少しだけ違い、100均で売っているようなおもちゃのグルグル眼鏡をかけていた。
幼き日の瑠莉
「ううん。わたしね、お姉ちゃんみたいに一等賞がよかったの。」
???
「勝つことよりも、最後まで諦めずに走ることのほうが、ずーっと大切ですゾ!」
瑠莉がローズ大の陣地に戻ると、先輩が待ち構えていた。
サポートの先輩部員
「瑠莉、早かったな。もういいのか?」
瑠莉
「はい、これ以上話してるとこっちがイライラしてきちゃいますから!」
サポートの先輩部員
「それ、もうイライラしてるだろ。」
選手を乗せた船は、いよいよ八景島の中継所に到着した。戦いの時が刻々と迫る。
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