【第8話】 憧れのニンジャランナー (前編)
文字数 2,676文字
ナレーション:
ワタシの名前はヘレナ・デュボワ。フランスのコレージュ(中学校)に通う、フツーの13歳…って言いたいところなんだケド。
実は、ワタシにはもう1つ、"アンドウ"って苗字がアリマス。
そう。ワタシは、フランス人の父と日本人の母から生まれた、ハーフなのデス。
あ! そうそう。
ここからはワタシ、フランス語で喋ってるから、日本語に翻訳しながら思い出していきマース。
それでは、どうぞ。
Au revoir! (またねー!)
ナレーション:
私は玄関にあがるなり、足早に洗面所へ向かいます。この頃の私は、鏡に向かってため息をつくのが、日課となっていました。
当時中学2年生だった私は、思春期の真っ只中。
だんだんと大人の顔になってきて、自分の容姿が、周りのフランス人の友達とは少しずつ違ってきていることを繊細に感じとっていました。
--そういえば、学校の友達は私のことをどう思っているんだろう。
--そういえば、お母さんと二人でスーパーに行くと、店員さんが何も喋ってくれないことがある。(お父さんと一緒の時はそんなことないのに。)
自分がハーフであること。
今まで全く気にしたことがなかったわけじゃないけれど、
一度気になり始めると、学校にいても、街を歩いていても、家に帰ってきても、もうどこにいても、そのことが頭から離れなくなりました。
父はトライアスロンの選手でした。
日本で開催される大会に出場した際、通訳の仕事をしていた母と出会い、二人が一緒にフランスで暮らすようになった後、私が生まれました。
父は毎日毎日、大変なトレーニングをしていて、遠くの地での大会や合宿がある時は何日も家を空けることもありました。
ブーーーン
オーーーーーーー。
パチパチパチパチパチパチ。
ヒューーヒューー。
そうかしら……。
えーっと、名前は、MATSURI UTAGAWA(マツリ・ウタガワ)?
ま、分かってはいたけど、フツーの日本人の名前ね。ハーフなんてそんなにいるもんじゃないか。
(あの選手は、毎日のように鏡を見て悩んだりはしないんだろうな……。)
オンユアマークス……。(位置について。)
(♪ピストルの音)
パァン!ワーーーーーーーー。
障害走での障害のひとつ。
1周のうち1か所だけ、ハードルの着地点がへこんでいて水が溜められている。
これにより選手は、単にハードルを越えるだけでなく、水に足を取られず素早く駆け抜けられるような着水をする必要がある。
バシャン、バシャン、バシャバシャバシャン
ナレーション:
日本の選手が、最初の水濠で他の選手と接触し、転倒してしまったのです。
ぶつかった相手は無傷で、何事も無かったように走り続けていましたが、日本の選手は思いっきり転んでしまいました。
こういう時、やっぱり身体が小さいと不利だなと思いました。