【第11話】 ガールズケミストリー (後編)
文字数 3,115文字
中村 (デイジー大 3年):
神宮寺さん、今年は最終組じゃないんだ。
岩田 (デイジー大 3年):
しかも、よりにもよって1番弱い、1組。
よっぽど調子が悪いのか、どこか怪我してるか。
三浦 珠美 (デイジー大 4年):
要するに、神宮寺を最終組に回さなくたって、予選通過は余裕ってわけね?
つくづく気に入らない連中だわ。 そう思うでしょ? 姉さんも。
三浦 琴美 (デイジー大 4年):
彼女の他に最終組を走れるような選手が揃ってきているのは事実よ。
今年は、我々デイジー大学と、本戦のトップ3を争うことになってもなんらおかしくはないわ。
花田 (デイジー大 1年):
もーーーお!
せっかくウチはシード校だっていうのにー。どーして予選なんか見なくちゃいけないんですかー!
琴美:
あら。じゃあ、あなただけ学校に戻って練習してていいのよ?
立花監督:
月並みな表現だけど、僕たちは一人じゃない。チームなんだ。
立花監督:
誰かの活躍は、みんなの勢いになる。
誰かのミスは、他の全員で補う。
立花監督:
これができた時、一人では到底出せなかったような力が出せる。それがチームだと思ってる。
必ず勝って、今日走れないサポートの2人も含めて、7人全員で、みなとみらいの舞台を走れるように、頑張りましょう!
蓮李:
えー、今まではどうしても個人の記録会だけだったけど、今日この1日は、アイリスの駅伝部として、みんなが本当の意味でチームになれる、船出の日になると思う。
蓮李:
特に2年生は、一年間試合がないのによくここまで我慢してついて来てくれたと思う。
今まで走りたかった気持ちを、爆発させよう。
蓮李:
1年生の二人は、入ったばっかりで、分からないことだらけだと思うけど、私たち先輩がついてるから。
今日はプレッシャーとか感じずに、練習の成果をお披露目する発表会だと思って、
蓮李:
チーム全員が自分らしく、力を出し切れれば、予選突破できると思います。
じゃあ、みんな、本番前もう一度、円陣組もうか。
蓮李:
自分達の力を信じよう!
アイリスーーー!! 行くぞーーー!!
咲月:
みんな、今日は曇ってて湿度が高いから、忘れないように水分補給してねー!
柚希:
バンビは私と一緒にアップに行くわよ。
出番が早いからね。
咲月:
わー、すごい人数。女子の長距離も結構人気なのね。
蓮李:
関東は特に激戦区って言われてて、他の地区より注目されてるみたいです。
蓮李:
あぁ。去年は出ることすらできなかったんだ。
ホント、夢のようだよ。
心枝:
選手は、あそこのゲートから入場してくるんだよね。
朝姫:
トップバッターはバンビか〜。
く〜、持ちタイム順だからしょうがないけど、1年生なのに大変な役回りになっちゃったよなー。
蓮李:
私達の姿が見えたらバンビも安心できるかもしれない。入場の時は思いっきり手振ってあげようね。
アナウンス:
第6回みなと駅伝・関東地区予選会は、全4組、各チーム5名の合計タイムで競われます。
第1組の選手は、最終点呼を行いますので、ユニフォームにナンバーカードをつけ、北ゲートに集合してください。
スタッフ:
はい。14番、15番、16番……
はい。最後。17番、アイリスもいるね。
楓:
ふぅー。
腰ゼッケン、取れかかってないよね?
靴紐……、もう1度結び直しておこ。
よし、っと。
楓:
……ん? え、はい! そうですがっ!
(エリカさんだ!)
エリカ:
あっ、突然ごめんなさい。私、ジャスミン大の神宮寺エリカといいます。よろしく。
楓:
は、は、はい! もちろん知ってます!
こちらこそよろしくお願いします!
(うっそぉーーー! 私、エリカさんと話しちゃったよーーー!!!)
(……でも、どうして私?)
二人が話していると、テレビ局のカメラが2台も3台も寄ってきた。
秋に放送される大学駅伝の特集番組で使う映像を撮るために、カメラマン達は必死になって神宮寺エリカの一挙手一投足を追いかけている。
エリカほどの注目選手ともなると、彼女を撮るためだけのカメラマンが何人もいるようだった。
エリカ:
ん? あぁ。
私が動くとついてきちゃうの。ごめんね、気になるよね。
楓:
い、いえ!
(さすがのエリカさんもちょっと困ってそう……、けどきっと、こういうの慣れっこなんだろうな。)
(この人達、さっきからずっとエリカさんだけを追いかけて撮ってるんだ。ホント、何から何まですごいや……。)
選手A:
なんなの、あの子。ほら、エリカさんと二人でカメラ向けられてる。
選手B:
どうもエリカさんのほうから話しかけたらしいよ。
選手A:
まじ? なんで? しかも全然見たことないユニフォームだし。
楓:
(はわわ。なんだか、すごく見られてるような……汗)
スタッフ:
はーい! それじゃあ1組の選手ー!
もう時間せまっちゃってるから。ドンドン入場しちゃってー。
(♪会場の音)
パチ・・・パチ・・・パチパチパチパチ
ワァーーーーー!
ワァーーーーー!
ワァーーーーー!
(パチパチパチパチパチパチ)
エリカは楓の背中を軽くポンと叩いて、駆け足で入場した。
慣れた様子で足早にスタートラインへ向かうエリカの後ろから、終始周りをキョロキョロしている楓が遅れてついて行く。
楓:
(うわぁー、すごい。この人達みーんな、みなと駅伝に出たいんだ。)
楓:
(どうしよう、心臓がバクバクしてきた。静まれー。静まれー。><)
楓にとっては、大きな競技場で走ることさえ初めてで、目の前には全く見慣れない光景が広がっていた。
楓はアイリスの集団に手を振り返した。
孤独と恐怖に負けそうになっていた自分の気持ちが、ストンと落ち着いたのが分かった。
楓:
(そうだ。アイリスのみんながついてるもん。大丈夫だ。みんなの笑顔を心にイメージするんだ。イメージ。イメージ。)
アナウンス
横浜みなと駅伝・関東地区予選会。
5000m第1組は、計17名で行われます。
選手の紹介は、スタート後に行います。
それまで騒がしかったスタジアムの空気に、沈黙が立ち込める。
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