【第20話】 バンビ、覚醒? (前編)
文字数 2,790文字
阪野:
すみません。
涼子だけならまだしも……
私まで乗せてもらうことになるなんて。
立花監督:
いいって、いいって!
困った時はお互い様だろ?
心枝:
あのとき黒田さんに道を聞かれたのが、もうずっと昔のことみたいだね。
柚希:
ほーんと。毎日が濃すぎて、もう半年くらい前に感じる。
立花監督:
あっはっはっは。そんなにか!
それだけ、毎日が充実してるってことだな!
柚希:
充実してるったって、私たち毎日毎日走ってばっかりですよー?
……まぁ、充実してるといえば充実してるか。
茉莉:
見たところ、もう10秒差は切ってるかもしれませんな!
黒田:
いやぁ、まさかバンビちゃんと同じ区間とはね!
よろしくね!
立花監督:
この駅伝は、楓が本当の意味で駅伝部員になる、重要な試合だ。
楓:
あの後、蓮李センパイ達がタスキのつけ方を教えてくれた。
朝姫:
そんでもって、その余った部分はズボンの中にしまっちゃうんだ。
柚希:
そうそう!
あっ、あとタスキの文字が正面に向くようにつけるのよ。
みなと駅伝の時はテレビ中継もあるから、ヨレヨレになってたらカッコわるいでしょ?
楓:
(私も、本当の駅伝部員になりたい……!)
(今日は、絶対に勝たなくちゃいけないんだ!)
先ほどより雲がどんどん分厚くなり、雨足はさらに強くなってきていた。
滝野監督:
すまない、涼子。この雨だ。コース上で待機させてる計測係の連中を先に宿舎まで送ってくる。
お前の後ろには途中からしか付けないと思うが、アンカー、しっかり頼んだぞ。
黒田:
いいです。
間に合わないと思いますよ?
……私、速いですから。
ヘレナ:
そろそろ4区のランナーが来マース!
アンカーの人はリレーゾーンについてくだサーイ!
黒田:
はーあ。せっかく同じ区間になったんだから、バンビちゃんと並んで走りたかったよ。
万里と千尋に美味しいとこぜーんぶ取られちゃった。
黒田:
(すごい集中力……。真剣な表情だ……初めて会った時とは別人みたい。)
黒田:
(……え? 逆転されてる!?)
(磯村先輩は!?)
立花監督:
蓮李ー! よくやったぞ!
楓も! 落ち着いて行くぞ!
楓:
(えっと、タスキのここを引っ張って、よし、できた!)
(5区)黒田:
(これは、バンビちゃんにカッコいいとこ見せるチャンスだ!)
(よぉーし!)
柚希:
私、智花と一緒に蓮李センパイを手伝ってきます。
立花監督:
楓ー! もう少し落ち着いて行こう。
このままだとオーバーペースだー。
楓ー?
立花監督:
どうしたんだろう……
指示が聞こえてないみたいだ……
この雨のせいか?
立花監督:
下り坂にしたって速すぎる。
しかも、またペースが上がってる。
茉莉:
そういえば、バンビ殿。
少し様子がヘンでしたな……。
茉莉:
今朝私が話しかけても、一言二言しか返ってこなかったり、聞こえてなかったりで。
心枝:
はい……。なんだかいつもより口数が少なくて。私も、今日は久しぶりの駅伝で緊張しててあまり声かけてあげられなかったんですけど。
立花監督:
(そういえば、予選会の時もそうだった。最初の何周かはこっちを見てたけど、途中からは一度も目が合わなかった。)
(あの時は隣にいた神宮寺監督と会場の歓声にかき消されてるだけだと思ってたけど……)
黒田:
(ねぇ、どうどう、バンビちゃん? 今のスパート見てくれた!?)
黒田:
(ついてきてる!)
(それどころか……、抜かれる!?)
黒田:
ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ。
(くっ、まだ加速できるの……!?)
(楓の心臓の音)
ドクン、ドクン。ドクン、ドクン。
ドクンドクン、ドクンドクン……
カエデの脚先が、
異様な妖気をまとって煌めき出した。
(楓の心臓の音)
ドクンドクン、ドクンドクン……
ドクンドクン、ドクンドクン……
立花監督:
これ以上は危険だ。
練習試合は中止にする。
茉莉:
ここからなら、我々の宿のほうが近いです!
いったんこちらへ避難しましょう!
さあ、早く!
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