勇気と代償 (1区 6km)
文字数 2,125文字
バイクリポート
「えー、3位集団ですが、リリー大の野崎、それからコスモス大の小笠原が遅れ始めました。
ここが15位、16位ということになります。前とはもう5秒の差です。」
アナ
「リリー大、コスモス大が遅れた、ということですが、
それでもまだ、この3位集団には12人と、20校のうちほとんどの選手が残っています。」
松田
「そうですね。集団が横に長くなってますから、やっぱりペースが上がってないんだと思います。」
アナ
「いま、集団の中央付近には、ジャスミン大の2年生、月澤瑠夏(つきざわ るか)の姿も見えました。」
アナ
「5000mのベストタイムは15分41秒と、1区のランナーの中では二番目に速いタイムを持っているこの月澤。
昨年1年生ながらこの区間5位と健闘しました。非常に力のあるランナーですよね? 松田さん。」
松田
「白桃女子高校時代には全国高校駅伝も経験していてね、
ジャスミン大の監督も神宮寺さんも、今日3区にエントリーされている1年生の洋見(なだみ)佳織さんと並んで、将来のエース候補なんだという風に話していましたよ。
ジャスミン大は近年、今3年生でエースの神宮寺エリカさんに皆さん憧れて、どんどん有力選手が入ってきて、力をつけてきていますよね。」
アナ
「そうですねぇ。そのあたり、チームの戦力も充実してきて、今年は優勝候補に名を連ねています、このジャスミン大。
もう神宮寺だけに頼るチームではなくなってきたでしょうか。」
勢いよく先頭に出た黒田のペースに難なくついていった朝姫だったが、
5kmの声掛けポイントを過ぎたあたりから、脚に異変を感じるようになっていた。
朝姫
(やべっ。さっき急にペースを上げたから、ここにきて脚が痙攣してきた・・・!これっ、ペース落とさないと・・・、両脚つる!)
アナ
「今、デルフィの黒田とアイリスの池田、その差が離れました!
これは黒田が上げたというより池田がついていけないか!
その差が明らかに離れました!」
サポートで来てくれている短距離部員
「太ももを叩いてますね。そんな・・・、あんなに調子良さそうだったのに。どうしよう。」
アナ
「デルフィ大の黒田のほうは、変わらず快調なペースで飛ばしています。」
松田
「あ、黒田さん、いま、ショーウィンドウに映る自分のフォームを確認しましたね。」
アナ
「一方、先ほど太もものあたりを叩く仕草が増えてきているのが、アイリスの池田です。黒田とはもう2秒から3秒、差が開きました。」
松田
「池田さん、ここからまだ3km少しありますから、ちょっと心配ですね。
もしかしたら脚に何かアクシデントが起きているかもしれませんね。」
立花監督
「やばい、これ逆転されるな。無理させたか。」
サポートで来てくれている短距離部員
「こんな大変な時に、どこ行くんですか!」
立花監督
「うん?ああ、こんな時だからこそだよ。次のランナーへの指示を出さなきゃ。
大丈夫。脚がおかしいなら、意地を張らず早めにペース落として正解だったんだ。まだまだ冷静だよ、アイツは。」
立花監督
「もしもしお疲れ様です。俺です。はい。心枝って、いま話せますか?
はい。はい。ちょっと代わってもらえますか?」
立花監督
(この状況を見て心枝が不安がってたらマズいからな。
ウチとしたら、これでも十分すぎるぐらいの絶好の展開なんだ。
これに怯まず、2区でもガンガン攻めていかなきゃダメだ。)
咲月
「心枝、ちょうどいいところに帰ってきた。
なんと監督から電話だ。よかったな!」
心枝
「え!監督からですか!
・・・はいっ!もしもし心枝です!」
心枝
「えーと、2人で飛び出したところまでしか・・・。アップに行ってました。」
立花監督
「あーうん、それでいいよ。
それでさ、朝姫が、まだ今は2位なんだけど、もしかしたら集団に抜かれるかもしれなくて。」
立花監督
「大丈夫だよ、で、スタートしたらなるべく早く集団に追いついて、力を温存しよう。下見の時に話した作戦通りだ。覚えてるね?」
立花監督
「よし、オッケー。大丈夫、今年は夏、ちゃんと練習積めたんだ。」
立花監督
「心枝、前よりすっごく速くなってるよ。自信持っていい。俺はずっと見てたから分かる。」
サポートで来てくれている短距離部員
「監督、そろそろ7キロの声掛けポイントです。」
心枝は、自分の思わず発した言葉と周りの視線に、たまらず恥ずかしくなってしまって、顔が真っ赤になった。
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