【第10話】 アオノリュウゼツラン (後編)
文字数 2,612文字
立花監督:
お、あったあった!
おーーーい! こっちだ! 見てくれ、これ!
立花監督:
実はこの間、この辺りを一人で走っていた時に偶然見つけてな。
立花監督:
アオノリュウゼツラン、っていうらしい。
30年に一度花を咲かせると言われているんだがな、その一度が、どうも今年の夏なんだそうだ。
立花監督:
30年に一度って言ったら、この大学の出身でも、知らずに卒業していく人がほとんどだろう。
この花は、君達が生まれる前から、30年っていう長ーい年月をかけて、
栄養を貯め、茎を伸ばし、もうすぐ花を咲かせようとしている。
今この瞬間に偶然立ち会えることは、奇跡みたいなもんだ。
立花監督:
このアイリスの駅伝部だって、奇跡の結晶みたいなもんだ。
最初は蓮李と茉莉の二人からスタートした。
立花監督:
ここにいる全員は、長い年月をかけて奇跡的に集まった。
今、この瞬間、こうしてみんなで走れるのも、決して当たり前じゃない、小さな奇跡の積み重ねなんだ。
このかけがえのないメンバーで走れる貴重な時間を、悔いのないよう、思いっきり駆け抜けよう。
それが来週、夢の舞台へ挑む君たちへ送る言葉だ。
柚希:
……なーんだ、何を言い出すかと思ったら。そんなこと!
柚希:
要は、予選に勝って、
みなと駅伝出場決めて、そんで、
みんなで笑えればいいんでしょ。
蓮李:
今まで自分たちがやってきた練習、そして、自分達の力を信じて。
あと一週間、それぞれがベストを尽くして。
必ず予選を勝ち上がろう!
神宮寺監督:
どうしたんだ、エリカ。
珍しいじゃないか。わざわざ監督室まで来て相談なんて。
エリカ:
監督。
今度の予選会、私を1組にエントリーしてください。
神宮寺監督:
何? 1組だと? エースのお前が何を言っている。
お前には今年も、最終4組でタイムを稼いでもらう。
それが、我がジャスミン大学のエースを担う者の役目だ。
エリカ:
ですが、このチームにはもう、私が最終組を走らなくても予選突破できるだけの力はついています。
神宮寺監督:
うむ。確かに。私もそう感じている。
他校との力差を考えても、出走順を多少いじったところでトップ通過は揺るがないだろう。
神宮寺監督:
だが、そもそもみなと駅伝の予選会では、
持ちタイムの遅い者から順に1組から4組までエントリーするのが、暗黙のルールとなっている。
既に過去2年間、選手として予選会を経験し、しかも監督の娘であるお前が、それを知らないわけではあるまい。
神宮寺監督:
突然そんなことを言い出すなんて、一体どうしたんだ?
エリカ:
……過去に、日本選手権に出場予定の選手が、タイム順を無視して前半の組で出走した例があると聞きました。
エリカ:
今年は、私も予選会の翌週に、日本選手権を控えています!
みなと駅伝も大事ですが、日本のトップレベルの選手達と戦えるこの機会を、万全の状態で迎えたいんです!
ですから、お願いします……!
神宮寺監督:
ふっ。なんだ、そういうことか。
それならそうと、始めからハッキリと言えばいいものを。
なるほど。お前の日本選手権へかける情熱は分かった。
みなと駅伝なんてのは世界を目指す上での通過点に過ぎないと、日頃から口うるさく言っているのはワシのほうだからな。
エリカ:
ありがとうございます。
それでは……私を1組に……
神宮寺監督:
分かった。学連へは私から事情を説明しておく。
ただし。
神宮寺監督:
大学で競技をやっている以上、チームの本戦出場にはきちんと貢献してもらう。
最低限、組トップと15分台では走れ。
それが条件だ。
エリカ:
はい。それは必ず。
流してそれぐらいのタイムで走れなければ、日本選手権では入賞すらかないませんから。
-- 予選 3日前 アイリス女学院大学駅伝部 部室にて--
(♪パソコンを操作する音)
カタカタ、カチッ、カチッ。
楓:
エントリーって、このあいだ監督が読み上げていたやつですか?
蓮李:
あー、うん、そうそう。
今日は全チームのが一斉に公開されるんだよ。
ヘレナ:
私はどの選手と当たるんでしょうか?
気になりマス〜。
心枝:
バンビちゃんも、誰と同じ組になるか気にならない?
楓:
あははー。……といっても私、
他校に一人も知り合いがいないもので。
朝姫:
はぁー、誰が来んのかなー!
速い人ばっかだったら嫌だなー。
蓮李:
なに言ってるんだ、朝姫。
私達二人は最終組なんだから、他校の一番速いランナーと勝負するんだぞ。
柚希:
ま、発表っていったって、大体はタイム順になってるから予想はつくけど。
心枝:
順番的に、ズッキーはジャスミンにいる元チームメイトと当たるかもしれないんだよね。
ヘレナ:
オー! 私も見たいデスー!
……フムフム、ナルホド?
茉莉:
……あれま!
これは、大変なことになりましたな。
柚希:
ええ? エリカさんって、5千も1万も持ちタイムトップですよね?
……なんで最終組じゃないわけ?
心枝:
え、ちょっと待って! ウチの1組っていったら……
楓:
(え? え? 私が……、エリカさんと走るの?)
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