【第21話】 白薔薇と黒薔薇 (後編)
文字数 3,190文字
楓:
レースは、エリカさんが先頭のまま7000mまで進み、先頭集団は6人に絞られました。
朝姫:
レンリ先輩もここまで粘ってきたけど、10番手ぐらいまで落ちちゃったなー。
柚希:
でもまだまだ入賞狙えるとこにいるわよ!
蓮李センパーーイ!!
楓:
(すごい……、いっつも動画で見てたエリカさんが今、目の前で走ってるんだ……。)
楓:
(……おっと、応援応援!)
蓮李センパーイ!!! ファイトーー!!!
アナウンス:
先頭、神宮寺さん・ジャスミン大学。
続いて、松永さん・ローズ大学、
続いて、姫路さん・同じくローズ大学。
立花監督:
さすが、ローズの2人は、神宮寺の仕掛けにきっちりついていってる……!
立花監督:
蓮李ーーー! 蓮李ーーー!
入賞! 入賞行けるぞーーー!
ヘレナ:
もう一人のジャスミンの選手にも届きそうデース!
アナウンス:
先頭代わりまして、
松永さん・ローズ大学、
続いて姫路さん・同じくローズ大学、
続いて神宮寺さん・ジャスミン大学。
立花監督:
神宮寺は、先に仕掛けて引き離せなかった分、最後に苦しくなったか……。
アナウンス:
優勝は、松永さん・ローズ大学!
速報タイムは、15分44秒!
立花監督:
蓮李ーーー! 蓮李ーーー!
最後まで!行けーーー!!
……やったあーーー!!
入賞だーーー!!
1位 15:44.93 松永 恵美 4 ローズ大
2位 15:46.33 姫路 薫 4 ローズ大
3位 15:47.09 神宮寺 エリカ 3 ジャスミン大
4位 15:53.17 ナンシー ラガト 2 リンドウ大
5位 15:55.49 三浦 琴美 4 デイジー大
6位 15:59.08 西村 穂乃花 4 リリー大
7位 16:00.41 二神 蓮李 4 アイリス女学大
8位 16:04.93 月澤 瑠夏 2 ジャスミン大
9位 16:06.25 阪野 千尋 3 デルフィ大
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立花監督:
いやー、最後6位も行けそうだったけどなー!
でも、大学生で7番になるくらいまで蓮李は戻ってきたぞ!
楓:
ふんふふーん♪
(やったあー! 蓮李センパイが入賞!)
楓:
(そろそろ蓮李センパイがスタンドに戻ってきてるかも! 早く、おめでとうございますって言いたいなぁ!)
ハンカチで手を拭きながら、軽い足取りでトイレの中から出てくる。
楓:
(あの人が負けるの……初めて見たな。私が見たどの動画でもエリカさんは優勝してたし……。)
(でも! 初日に1万も走ってるんだから! それなのに今日も3位って、やっぱりすごいよ!)
松田:
良かったら、みなさんで記念写真、
撮りませんか?
ジャスミン大・月澤:
ほらほら、もっと! エリカさんの隣に!
楓:
(やっばーい! あのとき走って逃げ出しちゃったこと、ちゃんと謝らなくっちゃ!)
エリカ:
楓こそ、何か言おうとしたことがあるんじゃないの?
楓:
あ、はい! あの!
予選会の時はすみませんでした!!
私、試合のあとで、色んな気持ちがグルグルしちゃって、走って逃げ出してしまって! 別にあれは決して、エリカさんを嫌ってとか、あの、そういうわけではなくってですね、その、ええっと……!
エリカ:
ちょうど私も、ずっとそのことを謝ろうと思っていたのよ。
楓:
えっ?
そんな、エリカさんが謝ることなんて……。
エリカ:
私のほうこそ、後輩達が言い出した事とはいえ、勝負の直後に軽率だったわ。ごめんなさい。
エリカ:
優勝って? ああ、初日の。
どうもありがとう。
楓:
1万も5千も、どっちも表彰台なんて、本当にすごいです。
エリカ:
ダメよ! 全然ダメ!
出るレースには全て勝たないと!
今日の負けは、反省すべき点がたくさん。
エリカ:
……この夏、相当練習したんじゃない?
たった数ヶ月会ってないだけなのに、なんだか顔つきが変わった気がするわ。
楓:
あの日から!エリカさんと走ったあの日から!
エリカさんみたいになれるように、エリカさんに少しでも近づけるように! 頑張ってます……!
楓:
はい……、いや!でもあの!
と言っても、全然まだまだ、エリカさんには遠く及ばないですけど、少しでもというか
エリカ:
遠く及ばないなんて、二度と言ってはいけないわ。
エリカ:
私に近づきたいと思うのなら、決して私から目を背けないことね。
きちんと目を覚まして、私のことを見続けるのよ。
楓:
(……そうだ、シルフィードだ。今の台詞、シルフィードが言ってた言葉だ……。エリカさんもシルフィードを履いているんだから……あの声を聞いたことがあっても不思議じゃない。エリカさんは、シルフィードの声が……)
楓:
あ、あのっ! エリカさんはシルフィードの声が……聞こえ
楓がそれを言い終わる前に、エリカは優しく微笑みながら人差し指をそっと鼻に当て、シーッという仕草をした。
エリカ:
みなと駅伝の5区。私はそこで楓を待ってる。
じゃあね。
楓:
(待ってる。)
(だあーって!うふふっ!)
(エリカさんのほうから、そんなこと言われちゃった! エリカさん、私とまた走ってくれるんだ!)
楓:
あ、蓮李センパーイ!おめでとうございます!
そうだ私! 今そこでエリカさんと…
(あれ……?)
姫路:
ぬるま湯に浸かってる間に、ずいぶん弱くなったじゃない、蓮李!
蓮李:
私は……。私は、自分の走りを見失わない場所を、選んだんだ。
姫路:
フンッ。今さら何を言ったって、アンタは辛い練習やプレッシャーから逃げたんだ。
蓮李、アンタは! 戦いに敗れた負け犬!
それ以上言わせまいと、後輩二人が庇うようにして蓮李の前へ出てきた。
茉莉:
(今日、ずっと嫌な予感がしていた……)
(レンリ殿がアイリスのユニフォームを着て、ローズ大の面々の前に姿を現すのは、今日が初めてになるから……)
朝姫:
蓮李さん。
……ローズ大の人たちと、何かあったんスか。
柚希:
ちょ、ちょっと、朝姫……!
(今、明らかに聞いちゃヤバそうだったじゃん!)
朝姫:
……話してください!!
姫路さん達と、何があったのか!!
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