第1話 ガイダルとグイダル

文字数 2,223文字

四人が通った森を抜けると、急に開けた場所に出る。そこが「センゴク(千国)」という村だった。しかし実際は村ではなく、ガイダルとグイダルが住む木造の平屋が一軒と納屋、それから小さな畑があるだけで、住人も二人しかいなかった。そこはなぜか温かく、コルナス山脈の麓とは思えないほど自然も豊かで、小川も流れている…住むには心地よいだろうと思われる場所であった。

オングとミツが着いた夜、ガイダルとグイダルは四人を一室に集めた。
話は殆ど、老婆であるガイダルが進め、グイダルは囲炉裏にくべた鍋から煮物をすくい、四人に取り分けていた。

「…さて、これで四人揃ったわけじゃが、問題はここからでな。お前さんたちはここからコルナス山脈の一番最北にある、スルナ山の頂上を目指すわけじゃが、そこまでは今までのように四神が道案内をすることは出来ぬ。話も一時的に出来なくなるじゃろう。」
「なぜです?」

カチが驚いたように聞き返した。勿論、他の三人も同じ気持ちだった。

「アマノイシの命令でな。」
「またそれか…。」

カチが、少し苛立ったように呟いた。すると、しわだらけの顔を更にくしゃくしゃにしてガイダルが笑う。

「フォ、フォ、フォ。火の子は、やはり短気じゃのう。まあ、待ちなさい。…お前さん達、なぜこの四人が選ばれたか分かっておるか?」
「それは、ずっと気になっていた事だわ。見た感じ、全員職種も違うし…恐らく、国も違うのでしょう…?」

その場の空気が一瞬凍り付いた。すると、その空気を和ませるように、グイダルが口を開く。

「国など…お前さん達にとって意味のないものじゃよ。」
「これ、グイダル。余計な事を言うんじゃないよ。」
「フォ、フォ、フォ…すまん、すまん。まあ、お前さん達、食べながら聞きなさい。」

グイダルはちょこんと自分の席に座りなおした。四人の前にはお椀が置いてあり、美味しそうな匂いと湯気が漂っている。

「わあ、美味しそうだべ。お腹空いてただよ。いただきます!」

ミツがそう言うと、お椀に箸をつけた。他の三人も同じように食べ始める。ガイダルは話を続けた。

「多少、感づいている者もおるようじゃが、お前さんたちは四神の力が無くても、多少の力なら今でも操る事が出来るのじゃ。」
「やはり、そうでしたか…。」

オングが顎に手を添えながら、難しい顔をした。ガイダルが笑顔で頷く。

「四神の中でも、気づいていない方もおられたようじゃが…。無理もない、人間のもつ自然を操る力なんぞ、四神から見たら微々たるもんじゃで。」
「ちょっと待て、そんな事、俺は知らなかったぞ。」

カチが慌てたように、ガイダルに問い正した。

「火の子は鍛冶職人じゃったな。今は指のせいで、刀を打てていないらしいが、お前の打つ刀は強かったはずじゃ。それは炉の中で燃える火を、お前さんが操り、熱の性質を自然と感じておったからじゃよ。他の者たちも思い当たることはあるじゃろ?」

四人はそれぞれに思案した。確かにそれぞれに思い当たることはある。それが職業に反映されている事も事実だった。

「四人が選ばれたのは偶然ではない。それぞれに火・水・風・土を感じる事が、元々出来たのじゃ。まあ…本来なら、誰でも少なからず、感じることが出来るんじゃがの…。」
「え?」

フーナが聞き返すと、グイダルが答えた。

「この世界が出来た時は、誰もが自然の力を操る事が出来たのじゃ。力の大小はあってもな。…時と共にその力は失われていったのじゃよ。」

グイダルのいう事にガイダルも頷くと、囲炉裏に向かって手をかざした。すると、囲炉裏にくべてあった薪の炎が一瞬パッと燃え上がる。

「お婆さん!火を操れるがか?!」

ミツが驚いて聞くと、ガイダルはまた、くしゃくしゃな笑顔を見せた。

「フォ、フォ、フォ…。わしは、火と風。グイダルは水と土を多少操る事が出来る。この村も…村と言えるかどうかは分からんが、わしらの力である程度住みやすくしてある。本当なら、この辺も雪山となっている場所じゃが、森があるのは、最初にグイダルが土に養分を与えて、植物が育つ環境にしたんじゃよ。この辺の地形も多少住みやすく平らにした。小川もグイダルが湧き水からここまでの流れを作ってくれておる。」
「土も水も凍らないのは、ガイダルが熱を調節してくれてるおかげじゃよ。風も、ガイダルが南からの風を、少しこちらに流してくれてるんじゃ。」
「すごい…。」

二人の話にフーナは思わず、感嘆した。確かにこの村は本来なら人が住めるような場所ではないだろう。だが、ガイダルはそんな事はどうでもいいと言うように、話を続けた。

「お前さんたちは、わしらよりもっと力があるはずじゃ。その力を引き出すために、アマノイシは、お前さん達にスルナ山への旅を命じたのじゃろう。」
「試練、て事だな。」

カチの答えに、ガイダルは頷く。

「…気になっていた事があります。」

ずっと何かを考えていたオングが、じっと老人達を見つめ、迷いながらも尋ねた。

「…あなた達は、何者ですか?」

他の三人もまた、息を詰めて二人を見つめる。すると、ガイダルとグイダルは顔を見合いため息をついた。少し悩んでいたようだったが、やがてガイダルが話し始める。

「…わしらは、ナッカとトステを作った人間じゃよ。」

二人の話は、四人を更に驚かせたのだった。
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登場人物紹介

アマノイシ(創造の神)

ヒノイシ(火の神)

カチの目を持つ

ミズノイシ(水の神)

ミツの目を持つ

カゼノイシ(風の神)

フーナの目を持つ

ツチノイシ(土の神)

オングの目を持つ

カチ(ナッカ国のカチ)

・鍛冶職人。右目に眼帯をしている。

・左手の指を二本失う(第1章第3話)

・仕事仲間のヌイトをクイに殺される。(第1章第3話)

・ヒノイシと共にある。

ミツ(トステ国のミツ)

・着物の染め師

・トヌマ(クイ)に好意を持つ(第1章第5話)

・幼馴染のカイヤの夫ロトが戦で死亡(第1章第6話)

・妃マルナのお気に入り

・ミズノイシと共にある。

フーナ(ナッカ国のフーナ)

・旅芸人一座の担い手

・同じ舞い手のチルミがタズ将軍(ドガ)に殺される。(第1章第8話)

・クイを装い逃亡中

・カゼノイシと共にある

オング(トステ国のオング)

・クイであるが普段は炭鉱夫。

・トヌマとは知り合い。

・鍛冶職人虐殺に加担。ヌイトを殺害する。

・養子ノアを失う(第1章第12話)

・ツチノイシと共にある。

ゴンガ(ナッカ国)

カチの友人。大将に就任する。

クナル(ナッカ国)

ナッカ国元帥。

ムタイ(ナッカ国)

元大将

ネスロ(ナッカ)

中将でムタイの腹心の部下

デング(ナッカ国)

フーナのいる一座の座長。娘チルミをタズ将軍(ドガ)に殺される

トヌマ(トステ)

・クイでオングの知り合い。

・マルナの護衛。

マルナ(トステ)

天子スミナルの妃

カイヤ(トステ国)

ミツの幼馴染。夫(ロト)を戦で失う。

ガイダル(センゴク村)

センゴクに住む老婆。

グイダル(センゴク)

センゴクに住む老夫

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