第1話 ガイダルとグイダル
文字数 2,223文字
オングとミツが着いた夜、ガイダルとグイダルは四人を一室に集めた。
話は殆ど、老婆であるガイダルが進め、グイダルは囲炉裏にくべた鍋から煮物をすくい、四人に取り分けていた。
「…さて、これで四人揃ったわけじゃが、問題はここからでな。お前さんたちはここからコルナス山脈の一番最北にある、スルナ山の頂上を目指すわけじゃが、そこまでは今までのように四神が道案内をすることは出来ぬ。話も一時的に出来なくなるじゃろう。」
「なぜです?」
カチが驚いたように聞き返した。勿論、他の三人も同じ気持ちだった。
「アマノイシの命令でな。」
「またそれか…。」
カチが、少し苛立ったように呟いた。すると、しわだらけの顔を更にくしゃくしゃにしてガイダルが笑う。
「フォ、フォ、フォ。火の子は、やはり短気じゃのう。まあ、待ちなさい。…お前さん達、なぜこの四人が選ばれたか分かっておるか?」
「それは、ずっと気になっていた事だわ。見た感じ、全員職種も違うし…恐らく、国も違うのでしょう…?」
その場の空気が一瞬凍り付いた。すると、その空気を和ませるように、グイダルが口を開く。
「国など…お前さん達にとって意味のないものじゃよ。」
「これ、グイダル。余計な事を言うんじゃないよ。」
「フォ、フォ、フォ…すまん、すまん。まあ、お前さん達、食べながら聞きなさい。」
グイダルはちょこんと自分の席に座りなおした。四人の前にはお椀が置いてあり、美味しそうな匂いと湯気が漂っている。
「わあ、美味しそうだべ。お腹空いてただよ。いただきます!」
ミツがそう言うと、お椀に箸をつけた。他の三人も同じように食べ始める。ガイダルは話を続けた。
「多少、感づいている者もおるようじゃが、お前さんたちは四神の力が無くても、多少の力なら今でも操る事が出来るのじゃ。」
「やはり、そうでしたか…。」
オングが顎に手を添えながら、難しい顔をした。ガイダルが笑顔で頷く。
「四神の中でも、気づいていない方もおられたようじゃが…。無理もない、人間のもつ自然を操る力なんぞ、四神から見たら微々たるもんじゃで。」
「ちょっと待て、そんな事、俺は知らなかったぞ。」
カチが慌てたように、ガイダルに問い正した。
「火の子は鍛冶職人じゃったな。今は指のせいで、刀を打てていないらしいが、お前の打つ刀は強かったはずじゃ。それは炉の中で燃える火を、お前さんが操り、熱の性質を自然と感じておったからじゃよ。他の者たちも思い当たることはあるじゃろ?」
四人はそれぞれに思案した。確かにそれぞれに思い当たることはある。それが職業に反映されている事も事実だった。
「四人が選ばれたのは偶然ではない。それぞれに火・水・風・土を感じる事が、元々出来たのじゃ。まあ…本来なら、誰でも少なからず、感じることが出来るんじゃがの…。」
「え?」
フーナが聞き返すと、グイダルが答えた。
「この世界が出来た時は、誰もが自然の力を操る事が出来たのじゃ。力の大小はあってもな。…時と共にその力は失われていったのじゃよ。」
グイダルのいう事にガイダルも頷くと、囲炉裏に向かって手をかざした。すると、囲炉裏にくべてあった薪の炎が一瞬パッと燃え上がる。
「お婆さん!火を操れるがか?!」
ミツが驚いて聞くと、ガイダルはまた、くしゃくしゃな笑顔を見せた。
「フォ、フォ、フォ…。わしは、火と風。グイダルは水と土を多少操る事が出来る。この村も…村と言えるかどうかは分からんが、わしらの力である程度住みやすくしてある。本当なら、この辺も雪山となっている場所じゃが、森があるのは、最初にグイダルが土に養分を与えて、植物が育つ環境にしたんじゃよ。この辺の地形も多少住みやすく平らにした。小川もグイダルが湧き水からここまでの流れを作ってくれておる。」
「土も水も凍らないのは、ガイダルが熱を調節してくれてるおかげじゃよ。風も、ガイダルが南からの風を、少しこちらに流してくれてるんじゃ。」
「すごい…。」
二人の話にフーナは思わず、感嘆した。確かにこの村は本来なら人が住めるような場所ではないだろう。だが、ガイダルはそんな事はどうでもいいと言うように、話を続けた。
「お前さんたちは、わしらよりもっと力があるはずじゃ。その力を引き出すために、アマノイシは、お前さん達にスルナ山への旅を命じたのじゃろう。」
「試練、て事だな。」
カチの答えに、ガイダルは頷く。
「…気になっていた事があります。」
ずっと何かを考えていたオングが、じっと老人達を見つめ、迷いながらも尋ねた。
「…あなた達は、何者ですか?」
他の三人もまた、息を詰めて二人を見つめる。すると、ガイダルとグイダルは顔を見合いため息をついた。少し悩んでいたようだったが、やがてガイダルが話し始める。
「…わしらは、ナッカとトステを作った人間じゃよ。」
二人の話は、四人を更に驚かせたのだった。