第3話 カチ、センゴクへ
文字数 1,907文字
馬に乗り、北に向かおうと走らせながら、カチはヒノイシに聞いた。
『実は…お前にまだ話していない事がある。』
「だから、何だよ。お前らしくねえなあ。」
『…お前の他に、コルナスに向かわなければならない人間が、あと三人いる。その三人もお前と同じような使命を背負っている。』
「人間を救うという使命か?その三人とはどういった奴らなんだ?」
『前にも話したが、マグノにはわしの他にミズノイシ・カゼノイシ・ツチノイシがおる。そして、わしと同じように一人の人間の目を持つ。つまり、お前のような人間だ。』
「なるほどな。」
『お前は、そやつらとセンゴクで落ち合って、共にコルナス山脈の最高峰スルナの頂上を目指さねばならぬ。』
「一緒に行けって事か。そいつらは同じナッカの人間なのか?」
『…そうとは限らぬ。』
カチは思わず、馬を止めた。
「…トステの人間もいるのか?」
『それを、お互いに確かめてはならぬ。それがアマノイシの意向だ。』
「…アマノイシは一体何を考えているんだ?」
『それは、わしにも分からぬ。…だが、お前達四人が揃ってスルナに着かなければ、人間は滅びるのは確かだ。』
「…分かった。」
再び馬を走らせたカチだったが、複雑な心境だった。アマノイシとやらの考えが分からない。集めた四人に何をさせたいのか、カチには想像もつかなかった。。
『それから、スルナまでの道のりはお前が思っている以上に過酷だと思った方が良い。季節に関係なく雪が吹雪き、前も見えないような場所だ。今まで人が立ち入ったことはない。』
「ああ、知ってるよ。覚悟してる。」
『その…わしはお前を助けることは出来ぬ。その、なんだ、…命を落としそうになっても助けられぬのだ。』
思わず、カチは吹き出した。
「何言ってんだ。俺の指が吹っ飛んでって、火事でも助けなかったお前が、今更なんだよ。」
『…今一度、念を押したまでだ。』
「分かった、分かった。」
『…無茶をするな。』
「…せいぜい、そうするよ。」
カチは暫く一人旅だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい事に、少し安堵を覚えたのだった。
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それから一ヶ月ほど馬を走らせ野宿をし、カチはコルナス山脈の近くまで来ていた。ここまで来るとさすがに人の気配がなくなってきている。もともと首都のメッキは北にあるので、寒さには慣れていたカチだったが、それでも今まで感じたことが無い寒さが襲ってくる。
カチはうっそうと生い茂った森の中にいた。
「センゴクという村はまだなのか?」
『この森を抜けた先だ。』
「しかし、こんな所に村があるなんて知らなかったよ。」
『そうだろうな。そこに住む人間は、ある種わしらに近い存在やも知れぬ。』
「何だそれ?」
『行けば分かる。それより…気を付けろ。』
いつの間にか狼の群れが、カチを取り囲んでいた。すると、カチの乗っていた馬が恐怖でいななき、カチを振り落として走り去って行く。カチは、すぐさま立ち上がり剣を構え、集中した。狼達は、ゆっくりと間合いを詰めてくる。
一匹の狼がカチの後ろから襲ってきた。カチは後ろも見ずにその狼に剣を振り上げると、狼は悲鳴を上げて絶命した。それを合図に次々と狼がカチに向かって襲い掛かる。だが、カチは舞うように剣を操り、一太刀で狼を一匹ずつ殺していった。鍛冶屋の集落にいたカチとは比べようもないほど強くなっていたのである。
さほど時間もかからず、そこにいた全ての狼がカチの剣に倒れていた。
すると、一人の小さな老婆がひょっこりと顔を出した。
突然現れた人の気配に、思わず剣を構えたカチだったが、その姿を見て剣を降ろす。
「フォ、フォ、フォ、全部殺したか。容赦ないのう火の子供は。狼には気の毒だが…ま、これで水の子や風の子も、来やすくなったと言うもんかの。」
笑いながら、その老婆はカチの傍に杖をつきながら歩いて来た。
老婆は、幾つかも分からないほど顔はしわだらけで、そのしわに押され目も隠れてしまっている。
「おばあさん、あなたは?」
「わしか?わしはセンゴクに住むガイダルじゃ。やはりお前が一番乗りのようじゃの、火の子供よ。それから、ヒノイシ殿もおられると聞いた。話せるかの?」
『アマノイシから聞いている。わしを感じる事が出来るお前なら、難なく話せるはずだ。』
「おお、生きてる間にヒノイシ殿と話せるとは思わなんだ。ありがたいことじゃ。」
そう言いながら、老婆は祈る仕草をした。
二人の会話にカチは戸惑うが、とりあえずセンゴクには着いたようであった。