第12話 センゴクに集う
文字数 2,006文字
「そうだな。ミツが同じ国の人間だってことは、もう知ってしまった。仕方ないとは思うが、問題あるか?」
村を出て十日ほど経った頃、オングは既にセンゴクの村まで、あと少しの所まで来ていた。その間、ツチノイシはオングにあまり話しかけなかったが、ここへ来て久しぶりに声をかけたツチノイシは、どこか歯切れが悪かった。
『お互いの国を教え合わないと言うのは、お互いを争わせない為なのだ。だから、ミツがトステ国の人間だと知ったところで問題はないだろう。問題はそれではない…。』
「どうした?」
『どうしたものかと思っていたが…いづれ分かると思う…言っておこう。…お前が殺そうとした鍛冶職人の棟梁カチは、ヒノイシの目として選ばれている。』
「何だって?」
オングは思わず、馬を止めた。
『お前の仕事は、カチを殺す事なのだろう?』
「ああ…。まさか、あの男が選ばれた四人のうちの一人…。」
『カチはお前を知らぬとは思う。だが、お前はどうする?』
「確かに顔は見られてはいないから、向こうは知らないだろう。…そうだな。どうするかな。」
オングは、クイとして命令に背いた事は今までにない。だが、四人でコルナスを目指さなければ、創造の神アマノイシは人間を滅ぼすと言っている。選択の余地は無いとオングは思った。
「…この旅の間は、手を出さぬ。」
『…懸命だ。感謝する。』
「礼の言葉など…お前らしくもない。そもそも人間が殺し合おうが、お前にはどうでもいい事だと言ってなかったか?」
少し笑ってオングが言うと、ツチノイシはそれには答えなかった。オングがもう一度ツチノイシに話しかけようとした時、オングは人の気配に気がつく。この辺は既に人里は無い。オングが辺りを警戒すると、女の泣く声が聞こえてきた。
地面に膝をついて、一人の女が泣いている。
「大丈夫か?」
「は!こんな所に人がおった!ああ、助かったべ~!」
「…もしかして、お前はミツか?」
「!何で、知っとるがか?!」
オングは自分がツチノイシの目であり、トヌマと知り合いだと話すと、慌てたようにミツは小声で言った。
「と、と、という事は、あなた様もクイだか?」
「まあ、そうだ。あいつが話したのか?相当、お前さんを信頼してるんだなあ。」
「そ、そんな事ねえです。恥ずかしいべ…。」
真っ赤になりながら話すミツに、オングは思わず笑ってしまった。
「ああ、失礼。ところでミツさん、お前さんここで何をやっていたのだ?」
ミツは、ここまではどうにか来れたが、あまりに綺麗な小川を見つけて、つい遊んでいたら馬がどこかに行ってしまい、途方に暮れていたのだと話した。オングはクスクス笑いながら聞いていたが、トヌマがミツを好きになった理由が少しわかった気がした。すると、突然ミツが叫ぶ。
「あ!あたいら、お互いに自分の国を喋ってしまったべ!どうすんべ?!」
オングは大笑いした。
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オングは自分の馬の後ろにミツを乗せ、うっそうと茂った森の中に入っていく。暫くすると、ミツがミズノイシと話していた。
「ミズノイシ、道がねえべよ。本当にこっちでええがか?」
ミズノイシが答えたようだったが、オングには聞こえなかった。
「やはり、それぞれの神としか話せないのだな。」
「んだな。あたいもツチノイシの声は聞こえねえべよ。」
「うん、まあ、まだ喋ってないけどな…。」
「あ、そうだったんか。みんなの声が聞こえたら、賑やかでいいと思っとったけどなあ。」
「ハハッ、そうだな。」
暫くすると、オングが人の気配に気づいた。警戒するオングにミツがしがみつく。
「なんか、おるがか?」
「シッ。」
オングがミツを黙らせると、ミツはビクッとして息を飲んだ。
馬の蹄の音が聞こえ、馬と共にしわだらけの老夫と老婆が現れた。背は小さく、まるで双子のように風体は似ていて、着物を取り替えたら、どちらがどちらなのか分からないのではないかと思われた。
「あたいの馬!」
そういうと、ミツはオングの馬から飛び降り、老人達のもとへと走って行く。
オングも馬から降り、老人達に尋ねた。
「あなた達は?」
「ガイダルにグイダルじゃ、土の子よ。水の子と一緒とはの。まあ、おかげで水の子もここに来れたというわけじゃな。フォ、フォ、フォ…。」
老婆が前に出て答えた。老夫の方はミツと馬の周りではしゃいでいる。
「俺を土の子と呼ぶなら…あなた方は全てをご存知なわけですね。」
「そうじゃ。よく来たな。お前達で最後じゃ。火の子と風の子は既に来ておる。みなが揃ったら説明すると言ってあるからの。火の子は今頃じりじりしとるじゃろうて。フォ、フォ、フォ。」
この日、センゴクに四人が揃ったのであった。