第3話 ミツの覚醒・フーナの覚醒
文字数 1,852文字
アスナ峰は、トステのマルナ妃と、ナッカのクナル元帥を中心に新国家に向け動こうとしている。クナルはまだ矢傷を癒していたが、クナルの回復を待って、新国家設立の会議を行う事で双方同意していた。ミツとフーナは、これ以上新国家に関わってはいけないと判断し、二人は戦を止める事だけに動こうと決めていた。
二人の旅立ちの朝。
フーナは、旅立つ前に、今日宿に到着する予定の旅芸人達と、クナルに挨拶をしてくると言って一旦宿へ戻った為、ミツもトヌマとマルナに旅立ちの前に挨拶をしておこうと、トステの砦に向かっていた。そしてトステ砦に着いた時、思わぬ人間に遭遇する。
「…カイヤ?…カイヤじゃないだか?」
ミツの見つめる先には、髪はぼさぼさで、ふらふら歩いている女性がいた。その女性はミツを見ると、力なく呟く。
「…ミツ…?」
間違いなかった。その女性はミツの幼馴染で、夫ロトを戦で失ったカイヤだった。行方不明と聞いていたカイヤだったが、ミツの村からずっと歩いて来たのだろうか…足は傷だらけでガリガリに痩せたカイヤに、以前の面影は無かった。ミツを一瞬見たカイヤは、その場で崩れるように倒れる。
「カイヤ!」
ミツは、慌ててカイヤに駆け寄り、軽くなってしまった彼女を背負うと、急いでトステの砦に連れて行った。砦の中の兵舎でカイヤを寝かし、無意識のカイヤに水を飲ませる。あの明るいカイヤの変わり果てた姿にミツの心は痛んだ。心配したマルナがカイヤの傍に座り、彼女の髪を撫でる。マルナは、カイヤが旦那をアスナ峰の戦で失い、今まで行方不明だったことをミツから聞くと、申し訳なさそうにカイヤを見つめた。
「…私はトステの天子様の妃でありながら、こういう事実に目を背けて来たのね…。どう償ったらいいのか分からないわ…。」
「マルナ様…。」
ミツはマルナの思いが良く分かった。だからこそ新しい国の代表として立つべきだとも思った。トヌマもまたマルナの考えに同意した。
「だからこそ、立て直さなければ…トステもナッカも。それが私達の出来る償いです。マルナ様。」
トヌマがそう言った瞬間だった。カイヤがパチッと目を開けると、傍に来たトヌマの脇から剣を抜き取る。そして先程までふらふらしていた人間とは思えない速さで、マルナ目掛けてその剣を突き刺した…。しかし、トヌマがその間に入りマルナには届かなかった。ミツの目の前でトヌマが血を吐き、膝をつく。
「トヌマ…カイヤ…!。」
一瞬ミツには何が起きたのか分からなかった。カイヤはその眼に怒りを宿していた。血だらけの剣を持ったまま呪いのように言葉を吐く。
「償いだ?…もう遅いべ…お前達がロトを、夫を殺したんだべ…お前達さえいなければ、戦は起きなかっただ…全部お前達のせいだ!」
もう一度マルナに剣を向けたカイヤだったが、トヌマが口から血を吐きながら、カイヤの剣を奪い取り、カイヤを切り殺す。カイヤは肩から袈裟に切られると、一瞬にして命を落とした。トヌマもその場で崩れ落ちていく。
「トヌマ!」
すぐさま駆け寄ったミツに、トヌマは最後の力を振り絞って言った。
「…すまない…お前の友人を…ミツ、君と共に…。」
それ以上、トヌマは何も言わなかった。ミツの心は砕け散った…。
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フーナは、宿のおかみが呼んでくれた旅芸人達と、まだ顔を合わせてはいなかった。予定では今日到着すると聞いていたので、久しぶりに会える仲間達を思い、心なしか気持ちが軽くなっていた。だが宿の前まで着くと、不穏な空気が宿の中に立ち込めている事に気づく。
『…何かあったのかしら?』
鼓動が早くなるのをフーナは感じ、クナルの部屋に駆け込んだ。
そして、信じられない光景を目にする。
「…座長…。」
一座の座長であるデングが、クナルの上に馬乗りになっていた。そしてその手には血だらけの短剣が握られている…。
「…こいつが、ナッカの元凶だ…娘の、チルミの仇だ…ドガは皆殺す…。ナッカ城では殺せなかった…俺がこいつに、ドガに敵うわけない…ハハハ、この機会を待っていた…。」
デングは笑いながら、何度もクナルを短剣で刺していた。もう既にこと切れたクナルの亡骸に向かって…。
フーナは、もう何も考えられなかった…。