第2話 国を作った者たち

文字数 2,229文字

三百年前、マグノは各地で小競り合いを繰り返していた。まだナッカもトステも存在しておらず、各地に村や町があり、隣り合う村や町で争うといったものだった。そんな状態が続く中で、約二百年前に現れたのが、ガイダルとグイダルだった。二人は自然を操る力を持っており、人々は二人の力を欲し、争いの際には二人に力を借りて勝利を得ようとしていた。

「お二人は、その…兄弟か何かですか?」

フーナの問いに、ガイダルが少し寂し気に答えた。

「いや、見た目は似ているが、全くの他人じゃよ。その当時、お互いに面識も無かった。むしろ兄弟だったら良かったのにと今は思う…。わしらは、それぞれ自分の村を救うために力を使ったが、それがどういう事か、その時は分かってなかったんじゃ…。」

ミツが、老人達をしげしげと見つめて尋ねる。

「お婆ちゃんたちは…ひょっとして、二百年以上生きてるがか?」
「まあ、そういう事じゃ。何で、わしらだけこんなに長生きなのかは分からんがの。」
「ひー。」

驚くミツに、ガイダルは少し笑った。だが、すぐに真剣な表情に戻ると話を続ける。
ガイダルとグイダルは、お互いにその存在を知らぬまま、争いに巻き込まれ、やがて二人を中心に世界を二分していったという。そして、ガイダルがナッカを、グイダルがトステを建国した頃、初めてお互いを知ることになった。それは戦場だったとガイダルが話す。

「…人々が争う中、初めてグイダルを見た時、自分とそっくりな姿にも驚いたが、考えている事も同じだとすぐに悟ったんじゃ。」
「考えている事?」

カチの問いに、ガイダルは答えに詰まった。するとグイダルがガイダルの気持ちを察してか、代わりに静かに呟く。

「…もう、戦はこりごりだったんじゃよ。」

その呟きに、ガイダルも悲しそうな顔をすると、申し訳なさそうに話を続けた。

「…わしらは、逃げたんじゃ。それ以来ここに住んでおる。もう、わしらの力で人々が死んでいく姿を見たくは無かったんじゃ…。」
「それで争いだけが残ってしまった…。」

オングが呟くと、暫く誰も口を開かなかった。
この老人達は、マグノの歴史をずっと見てきたのだった。その争いの日々は、二国が建国されてもなお続いている。四人はこれからも続くであろう戦いの日々を感じていた。
やがて、グイダルが静かに話し始める。

「…ナッカは、ガイダルの火の感情が受け継がれ、力の強い者が国を治める形を作っていったんじゃろう。トステは、わしの代わりに天子様という存在を作り、水や土ではなく人間の神を作り上げ、その恩恵を天子が賜ると言う形を作ったんじゃ。わしらがいなくなってからも、当然、統率者は必要じゃったろうからな…。どちらにしても、そうさせたのもわしらじゃ。罪深い事じゃよ…。」
「でも、お爺さん達はどうする事も出来んかっただ。悪いのはお爺さん達を利用した方だべ?」

ミツの言葉にグイダルは苦笑した。

「水の子は優しいのう…。じゃがな、わしらの一番の罪は『逃げた』事じゃよ。土の子の言うように争いだけを残してな。…今となっては、どうする事も出来んが…。」
「でも、もしかしたら私達がこの争いを止められるのかもしれないのね?」

フーナが問うと、ガイダルが難しそうな顔をして答える。

「…アマノイシが何をお考えになってるかは分からん。じゃが『人間を救いたくばコルナスへ来い』と仰ったのなら、その目的の一つに四人がスルナ山へ行く事も含まれているのじゃろう。」
「二人は、スルナ山へ行ったことはないのか?」

カチの質問にガイダルは首を振った。

「あそこへは、わしらとて行けぬ。常に吹雪いていて足元も見えないような場所じゃ。一度試みた事はあるが、わしの力ではその吹雪も多少は和らげることは出来ても、続けて力を発揮し続けることは無理じゃったよ。もともと火と風の二つの力を持っているという事は、それぞれの力を十分に発揮する事は不可能なのかも知れん。それは、水と土の力を持つグイダルも同じ事じゃ。」
「そんなに?現時点で、私達がお二人より、自然を操る能力があるようには思えないけど…。」

フーナの懸念は、他の三人も同じだった。すると、グイダルが笑って答える。

「フォ、フォ、フォ…。人間は、危機に対した時に一番力を発揮するものじゃ。心配はいらん。難しいのはそれを調節する事と、お前さん達が協力し合えあるかという事じゃ。」
「協力って?」

カチが問いただすと、フーナが理解したように自分の意見を老人達に確かめた。

「お二人がこの村を維持しているように、私が風を止め、カチが温度を上げるといった事ですか?」
「そういう事じゃ。二人だけでは無理じゃぞ。水の子も土の子も力を感じ、どう使うかを考えなくてはならん。四人がそれぞれの能力を発揮せねば、スルナ山へ着く事は無理じゃろうて。」

ガイダルの言葉に、四人は言葉を失った。想像以上の過酷な旅になる事を予感したのである。そんな空気を感じてか、グイダルは笑いながら四人を慰めた。

「フォ、フォ、フォ。お前さん達なら大丈夫じゃよ。わしら以上の力を持つだろうという事は、見ただけで分かる。さあ、今日はゆっくり休んで明日出発すると良い。早いに越したことはないじゃろうて。」

その夜、四人は旅の過酷さを想像しながらも眠りにつく。
その旅は、四人にとって初めて経験する事ばかりであった。
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登場人物紹介

アマノイシ(創造の神)

ヒノイシ(火の神)

カチの目を持つ

ミズノイシ(水の神)

ミツの目を持つ

カゼノイシ(風の神)

フーナの目を持つ

ツチノイシ(土の神)

オングの目を持つ

カチ(ナッカ国のカチ)

・鍛冶職人。右目に眼帯をしている。

・左手の指を二本失う(第1章第3話)

・仕事仲間のヌイトをクイに殺される。(第1章第3話)

・ヒノイシと共にある。

ミツ(トステ国のミツ)

・着物の染め師

・トヌマ(クイ)に好意を持つ(第1章第5話)

・幼馴染のカイヤの夫ロトが戦で死亡(第1章第6話)

・妃マルナのお気に入り

・ミズノイシと共にある。

フーナ(ナッカ国のフーナ)

・旅芸人一座の担い手

・同じ舞い手のチルミがタズ将軍(ドガ)に殺される。(第1章第8話)

・クイを装い逃亡中

・カゼノイシと共にある

オング(トステ国のオング)

・クイであるが普段は炭鉱夫。

・トヌマとは知り合い。

・鍛冶職人虐殺に加担。ヌイトを殺害する。

・養子ノアを失う(第1章第12話)

・ツチノイシと共にある。

ゴンガ(ナッカ国)

カチの友人。大将に就任する。

クナル(ナッカ国)

ナッカ国元帥。

ムタイ(ナッカ国)

元大将

ネスロ(ナッカ)

中将でムタイの腹心の部下

デング(ナッカ国)

フーナのいる一座の座長。娘チルミをタズ将軍(ドガ)に殺される

トヌマ(トステ)

・クイでオングの知り合い。

・マルナの護衛。

マルナ(トステ)

天子スミナルの妃

カイヤ(トステ国)

ミツの幼馴染。夫(ロト)を戦で失う。

ガイダル(センゴク村)

センゴクに住む老婆。

グイダル(センゴク)

センゴクに住む老夫

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