第2話 国を作った者たち
文字数 2,229文字
「お二人は、その…兄弟か何かですか?」
フーナの問いに、ガイダルが少し寂し気に答えた。
「いや、見た目は似ているが、全くの他人じゃよ。その当時、お互いに面識も無かった。むしろ兄弟だったら良かったのにと今は思う…。わしらは、それぞれ自分の村を救うために力を使ったが、それがどういう事か、その時は分かってなかったんじゃ…。」
ミツが、老人達をしげしげと見つめて尋ねる。
「お婆ちゃんたちは…ひょっとして、二百年以上生きてるがか?」
「まあ、そういう事じゃ。何で、わしらだけこんなに長生きなのかは分からんがの。」
「ひー。」
驚くミツに、ガイダルは少し笑った。だが、すぐに真剣な表情に戻ると話を続ける。
ガイダルとグイダルは、お互いにその存在を知らぬまま、争いに巻き込まれ、やがて二人を中心に世界を二分していったという。そして、ガイダルがナッカを、グイダルがトステを建国した頃、初めてお互いを知ることになった。それは戦場だったとガイダルが話す。
「…人々が争う中、初めてグイダルを見た時、自分とそっくりな姿にも驚いたが、考えている事も同じだとすぐに悟ったんじゃ。」
「考えている事?」
カチの問いに、ガイダルは答えに詰まった。するとグイダルがガイダルの気持ちを察してか、代わりに静かに呟く。
「…もう、戦はこりごりだったんじゃよ。」
その呟きに、ガイダルも悲しそうな顔をすると、申し訳なさそうに話を続けた。
「…わしらは、逃げたんじゃ。それ以来ここに住んでおる。もう、わしらの力で人々が死んでいく姿を見たくは無かったんじゃ…。」
「それで争いだけが残ってしまった…。」
オングが呟くと、暫く誰も口を開かなかった。
この老人達は、マグノの歴史をずっと見てきたのだった。その争いの日々は、二国が建国されてもなお続いている。四人はこれからも続くであろう戦いの日々を感じていた。
やがて、グイダルが静かに話し始める。
「…ナッカは、ガイダルの火の感情が受け継がれ、力の強い者が国を治める形を作っていったんじゃろう。トステは、わしの代わりに天子様という存在を作り、水や土ではなく人間の神を作り上げ、その恩恵を天子が賜ると言う形を作ったんじゃ。わしらがいなくなってからも、当然、統率者は必要じゃったろうからな…。どちらにしても、そうさせたのもわしらじゃ。罪深い事じゃよ…。」
「でも、お爺さん達はどうする事も出来んかっただ。悪いのはお爺さん達を利用した方だべ?」
ミツの言葉にグイダルは苦笑した。
「水の子は優しいのう…。じゃがな、わしらの一番の罪は『逃げた』事じゃよ。土の子の言うように争いだけを残してな。…今となっては、どうする事も出来んが…。」
「でも、もしかしたら私達がこの争いを止められるのかもしれないのね?」
フーナが問うと、ガイダルが難しそうな顔をして答える。
「…アマノイシが何をお考えになってるかは分からん。じゃが『人間を救いたくばコルナスへ来い』と仰ったのなら、その目的の一つに四人がスルナ山へ行く事も含まれているのじゃろう。」
「二人は、スルナ山へ行ったことはないのか?」
カチの質問にガイダルは首を振った。
「あそこへは、わしらとて行けぬ。常に吹雪いていて足元も見えないような場所じゃ。一度試みた事はあるが、わしの力ではその吹雪も多少は和らげることは出来ても、続けて力を発揮し続けることは無理じゃったよ。もともと火と風の二つの力を持っているという事は、それぞれの力を十分に発揮する事は不可能なのかも知れん。それは、水と土の力を持つグイダルも同じ事じゃ。」
「そんなに?現時点で、私達がお二人より、自然を操る能力があるようには思えないけど…。」
フーナの懸念は、他の三人も同じだった。すると、グイダルが笑って答える。
「フォ、フォ、フォ…。人間は、危機に対した時に一番力を発揮するものじゃ。心配はいらん。難しいのはそれを調節する事と、お前さん達が協力し合えあるかという事じゃ。」
「協力って?」
カチが問いただすと、フーナが理解したように自分の意見を老人達に確かめた。
「お二人がこの村を維持しているように、私が風を止め、カチが温度を上げるといった事ですか?」
「そういう事じゃ。二人だけでは無理じゃぞ。水の子も土の子も力を感じ、どう使うかを考えなくてはならん。四人がそれぞれの能力を発揮せねば、スルナ山へ着く事は無理じゃろうて。」
ガイダルの言葉に、四人は言葉を失った。想像以上の過酷な旅になる事を予感したのである。そんな空気を感じてか、グイダルは笑いながら四人を慰めた。
「フォ、フォ、フォ。お前さん達なら大丈夫じゃよ。わしら以上の力を持つだろうという事は、見ただけで分かる。さあ、今日はゆっくり休んで明日出発すると良い。早いに越したことはないじゃろうて。」
その夜、四人は旅の過酷さを想像しながらも眠りにつく。
その旅は、四人にとって初めて経験する事ばかりであった。