第2話 オングの覚醒
文字数 1,396文字
『あいつら、何やってるんだ!今首都へ行ってはいけない!』
そう思うや否や、オングは馬に飛び乗り、首都カナンへと急いだ。
カナンに着くと、オングは子供達の気配が、皇室の中の神殿にある事に気づいた。不安がよぎる。恐らく、彼らは見つかったのだ。そうさせないように動いていたオングは、自分の策略が失敗している事を認めるしかなかった。だが、子供達の気配はまだ生きている。オングは神殿に向かった。
「…来たか、オング。早かったな。その様子では、軍と共に行動せずに戻って来た…というところか。」
カミル大神官が、勝ち誇ったようにオングに語りかけた。その傍らにはクイの一人、ドグが控えていた。ドグはトヌマに負わされたケガのせいでトステ軍には参加していなかったが、それは表向きで、裏ではカミルの命令を受け、炭鉱の町へクイの子供達を捕らえに行っていたのである。
カミルとドグの前には、クイの子供達が縛り上げられ、口には猿ぐつわをさせられていた。子供達はオングの姿を見かけると、涙を流しながら言葉にならない声で、必死に叫ぶ。ドグが子供達に剣を向けると、子供達は怯えるように押し黙った。その様子に、オングは歯ぎしりをして震えていた。
「お前が、カチを捕らえずに戻ってきた時点でおかしいと思ったのだ。お前は優秀だ。今までに命令を実行せずに戻って来た事などない。更にクイを辞め教官になりたいと聞いた時、何かあると思ってドグに調べさせていたのだよ。…何と言ったかなあ、口がきけない子供…。」
「ノアにございます。」
カミルの問いに、ドグが答えた。『ノア』という言葉を聞いた瞬間オングが一瞬身じろぐと、そんなオングを見たカミルは、笑いながら話し続けた。
「そうだった、そうだった。オング、まさかトヌマだけでなくお前までもが情に流されるとはなあ…馬鹿めが。こやつらを逃がすなどと小癪な真似をしなければ、見逃してやったものを…。」
「…どうする気だ?その子達を人質にでもするつもりか?!」
オングは、怒りを抑える事が出来ずに、思わず声を荒げた。
「…そうじゃのう。お前の土を操る力は、これからもわしの為に役立ててもらわなければならぬ。だが今回のように、わしを裏切るような真似をするのも困りものだ。従って、お前が裏切る素振りを見せたらこやつらを一人ずつ殺していく…と言うのはどうだ?』
怯える子供達の姿を見て、オングが震えながら跪こうとすると、モルが猿ぐつわを何とか噛み切って叫んだ。
「ダメだ!おっさん!こいつらの言いなりになるんじゃねえよ!そんな事になるんだったら、死んだ方がマシ…。」
モルが最後まで言い終わらないうちに、ドグがモルを一瞬にして切り殺した。モルはうつぶせで地面に倒れる。
「先ず一人目だ。」
カミルは口の端を上げて、ニヤリと笑った。
その瞬間、オングは何も考えられなくなった。
『ゴゴゴゴゴ…。』
オングの覚醒は、地を這うような地鳴りとともに始まった。