第2話 オングの覚醒

文字数 1,396文字

カチと別れた後、オングはトステの首都カナンに向かっていたが、その途中である気配が移動している事に気付いた。馬から降りて地面に手を置き集中すると、移動している気配は複数で、それはオングが一番大切に思っている人間…クイの子供達だった。オングがいた炭鉱の町にいるはずのモルやサンザの気配が、首都カナンへと移動している。

『あいつら、何やってるんだ!今首都へ行ってはいけない!』

そう思うや否や、オングは馬に飛び乗り、首都カナンへと急いだ。

カナンに着くと、オングは子供達の気配が、皇室の中の神殿にある事に気づいた。不安がよぎる。恐らく、彼らは見つかったのだ。そうさせないように動いていたオングは、自分の策略が失敗している事を認めるしかなかった。だが、子供達の気配はまだ生きている。オングは神殿に向かった。

「…来たか、オング。早かったな。その様子では、軍と共に行動せずに戻って来た…というところか。」

カミル大神官が、勝ち誇ったようにオングに語りかけた。その傍らにはクイの一人、ドグが控えていた。ドグはトヌマに負わされたケガのせいでトステ軍には参加していなかったが、それは表向きで、裏ではカミルの命令を受け、炭鉱の町へクイの子供達を捕らえに行っていたのである。
カミルとドグの前には、クイの子供達が縛り上げられ、口には猿ぐつわをさせられていた。子供達はオングの姿を見かけると、涙を流しながら言葉にならない声で、必死に叫ぶ。ドグが子供達に剣を向けると、子供達は怯えるように押し黙った。その様子に、オングは歯ぎしりをして震えていた。

「お前が、カチを捕らえずに戻ってきた時点でおかしいと思ったのだ。お前は優秀だ。今までに命令を実行せずに戻って来た事などない。更にクイを辞め教官になりたいと聞いた時、何かあると思ってドグに調べさせていたのだよ。…何と言ったかなあ、口がきけない子供…。」
「ノアにございます。」

カミルの問いに、ドグが答えた。『ノア』という言葉を聞いた瞬間オングが一瞬身じろぐと、そんなオングを見たカミルは、笑いながら話し続けた。

「そうだった、そうだった。オング、まさかトヌマだけでなくお前までもが情に流されるとはなあ…馬鹿めが。こやつらを逃がすなどと小癪な真似をしなければ、見逃してやったものを…。」
「…どうする気だ?その子達を人質にでもするつもりか?!」

オングは、怒りを抑える事が出来ずに、思わず声を荒げた。

「…そうじゃのう。お前の土を操る力は、これからもわしの為に役立ててもらわなければならぬ。だが今回のように、わしを裏切るような真似をするのも困りものだ。従って、お前が裏切る素振りを見せたらこやつらを一人ずつ殺していく…と言うのはどうだ?』

怯える子供達の姿を見て、オングが震えながら跪こうとすると、モルが猿ぐつわを何とか噛み切って叫んだ。

「ダメだ!おっさん!こいつらの言いなりになるんじゃねえよ!そんな事になるんだったら、死んだ方がマシ…。」

モルが最後まで言い終わらないうちに、ドグがモルを一瞬にして切り殺した。モルはうつぶせで地面に倒れる。

「先ず一人目だ。」

カミルは口の端を上げて、ニヤリと笑った。
その瞬間、オングは何も考えられなくなった。

『ゴゴゴゴゴ…。』

オングの覚醒は、地を這うような地鳴りとともに始まった。



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登場人物紹介

アマノイシ(創造の神)

ヒノイシ(火の神)

カチの目を持つ

ミズノイシ(水の神)

ミツの目を持つ

カゼノイシ(風の神)

フーナの目を持つ

ツチノイシ(土の神)

オングの目を持つ

カチ(ナッカ国のカチ)

・鍛冶職人。右目に眼帯をしている。

・左手の指を二本失う(第1章第3話)

・仕事仲間のヌイトをクイに殺される。(第1章第3話)

・ヒノイシと共にある。

ミツ(トステ国のミツ)

・着物の染め師

・トヌマ(クイ)に好意を持つ(第1章第5話)

・幼馴染のカイヤの夫ロトが戦で死亡(第1章第6話)

・妃マルナのお気に入り

・ミズノイシと共にある。

フーナ(ナッカ国のフーナ)

・旅芸人一座の担い手

・同じ舞い手のチルミがタズ将軍(ドガ)に殺される。(第1章第8話)

・クイを装い逃亡中

・カゼノイシと共にある

オング(トステ国のオング)

・クイであるが普段は炭鉱夫。

・トヌマとは知り合い。

・鍛冶職人虐殺に加担。ヌイトを殺害する。

・養子ノアを失う(第1章第12話)

・ツチノイシと共にある。

ゴンガ(ナッカ国)

カチの友人。大将に就任する。

クナル(ナッカ国)

ナッカ国元帥。

ムタイ(ナッカ国)

元大将

ネスロ(ナッカ)

中将でムタイの腹心の部下

デング(ナッカ国)

フーナのいる一座の座長。娘チルミをタズ将軍(ドガ)に殺される

トヌマ(トステ)

・クイでオングの知り合い。

・マルナの護衛。

マルナ(トステ)

天子スミナルの妃

カイヤ(トステ国)

ミツの幼馴染。夫(ロト)を戦で失う。

ガイダル(センゴク村)

センゴクに住む老婆。

グイダル(センゴク)

センゴクに住む老夫

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