第7話 アマノイシ

文字数 2,597文字

スルナ山の頂上は、切り立った雪山でしかなかったが、四人が頂上について暫くすると、徐々にその姿を変えていく…。周りの風景が歪んだかと思うと、いつの間にか、何か大きな建物の中に四人は居た。巨大な石の柱が何本も立ち、全て石造りの建物のようだった。かなり大きな宮殿と言った感じのその建物の奥には玉座があり、その玉座に大木のような大きな人間が座っていた。山伏のようなその姿は人間の男と変わりはなかったが、とにかくその大きさは人間ではない。それは見た目の大きさもさることながら、その存在の大きさに押し潰されそうな感覚すらあったのだ。

『よく来た。人の子よ。私はアマノイシだ。』

アマノイシが話すと、空気が震えているようだった。四人は一瞬あっけにとられたが、すぐにその場に座り直し礼をとった。

『本来、私に姿形は無い。だが、お前達と話しやすいようにこの場を作った。お気に召したかな?』

そう問われても、どう答えていいのやら分からなかった四人は、ただただ恐縮していた。
アマノイシは少し笑ったように見えたが、話を続ける。

『お前達も、少しは自然を操る力を身につけたようじゃな。だが、それで終わりではない。お前達はこれから先、それ以上の力を身にまとう事になるだろう。』
「これから先?」

カチが思わず聞き返した。

『お前達は「人間を救う」その為にここへ来た。そうであろう?』

四人は息を飲み、頷いた。アマノイシは一体何をしろというのか…。

『お前達も分かったと思うが、人間を滅ぼすのは簡単だ。四神の力を持ってすれば、明日にでも人間を滅ぼす事は可能だろう。』

四人は、それはそうだろうと思った。自分達ですら、身につけた力を悪用すれば、簡単に人を殺せてしまう。かつてガイダルとグイダルがそうだったように…。

『だが、人を救うのはやはり人でしかないのだ。私も四神もお前達人間を救う事は出来ぬ。』
「そんな…。」

ミツが思わず、声を上げた。何のためにここまで来たのか、その目的が目の前で崩れ去るように感じた。オングが諦めきれずにアマノイシに問う。

「では、なぜここに私達を集めたのですか?」
『良い質問じゃ。理由は三つある。一つはお前達の中に眠る自然を操る力を覚醒させる為、二つ目は今の状況をお前達が知る為。三つめは…我の助言だ。』
「私達に分かるように教えてくださいますか?その全てを。」

フーナが真剣な眼差しでアマノイシを見つめた。他の三人も同様に、アマノイシの言葉を聞き洩らすまいと身構える。

『一つ目のお前達の自然を操る力だが、先程も言ったように、お前達は今以上の力を持つだろう。ここまでの旅は、そのきっかけにしか過ぎぬ。これから先、お前達がそれぞれの国に帰り、その力を覚醒していくのだ。そこまでは良いな?』

四人は、納得はしなかったが頷くしかなかった。

『二つ目の今の状況だが、それはお前達の国の状況だ。お前達の国は、このまま行けばそう遠くない未来に、全ての人間達を巻き込むような戦を起こすだろう。兵士として戦わずとも、全ての人間が殺し合いに巻き込まれていく…。』
「…兵士じゃなくても?」

驚いたカチは、声を出さずにはいられなかった。アマノイシはゆっくりと頷いた。

『そうだ。戦が戦を呼び、食べ物を始め、色々な物が不足する事で略奪が起きる。そして、女子供とて容赦なく殺されていくだろう。』
「…なぜ、そのような事が分かるのです?」

オングが冷静に聞くと、アマノイシは微笑んだ。

『お前達より、気の流れを感じる事が出来るのでな。燻ぶっている

がいずれ炎となる姿が見えるだけの事。分かりやすく言えば、少し未来が見えるだけだ。』
「あなた様に、その

を無くすことは出来ないだか?」

ミツは諦めきれずにアマノイシに尋ねた。これほどの存在が何故人間を救えないのか、理解が出来なかったのだ。

『私は創造の神だ。世界を創る事は出来ても、その世界で

の運命を変えてやることは出来ぬ。変えるのはお前達自身だ。』

ぴしゃりと言ったアマノイシの言葉に四人は黙ってしまった。
…暫くして、思案していたオングが口を開く。

「…だから、四神は居ても、人に神がいないのですね…。」
『…気づいたようだな。火・水・風・土は、この世界の基礎だ。私が創ったのはそこまでにすぎん。そこで生まれた生物は、お前達人間を含め、自然が生み出した言わば「奇跡」なのだ。それは同時に、自然が生み出した「意志」でもある。』
「そうか…だから、ガイダルが言ったように、人間はもともと自然を操る力があったと…。」

フーナが合点が言ったように、呟いた。アマノイシは満足したように笑顔を見せる。

『分かって来たか。四神ですら、気づいていなかったようだが…。そもそも火・水・風・土から生まれたお前達人間に、その力が備わっていないわけはないのだ。ガイダル達が話したように、力の大小はあってもな。時と共に失われていったのは、人間自身が自然を感じる力を失っていっただけの事。』

カチが更にアマノイシに尋ねた。

「なぜ、四神ですら気づかなかったのですか?」
『何事も知ろうとしなければ、知り得ない。それは四神とて同じことだ。彼らも気づかねばならぬ。人間という存在自体が

ものだという事を。この世界は全てのものが繋がっているのだ。』

四人は、自分という存在が世界と無関係ではないという事に、改めて気づかされた。
フーナが迷ったようにアマノイシに尋ねる。

「あの…三つ目の『助言』とは何でしょう?今までのあなたの話では、その助言を聞いていいものかどうか、分かりませんが…。」
「何でだよ、フーナ。聞かなきゃ、どうしたらいいか分かんねえだろう?」
「カチ!馬鹿ねえ。私達の運命は私達で変えろって言われたばかりでしょ?」
「あ…そうか。すまん。」

二人のやり取りを見て、アマノイシは面白そうにしていた。

『お前たち人間は、やはり面白いのう。いや、風の子の言う通りなのだが…。そうだな、ここまで来た褒美とでも思ってもらえばいいかのう。』

四人は息を飲んでアマノイシの言葉を待った。そして発せられた言葉に全員が驚愕する。

『先ずは、国を滅ぼせ。』
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登場人物紹介

アマノイシ(創造の神)

ヒノイシ(火の神)

カチの目を持つ

ミズノイシ(水の神)

ミツの目を持つ

カゼノイシ(風の神)

フーナの目を持つ

ツチノイシ(土の神)

オングの目を持つ

カチ(ナッカ国のカチ)

・鍛冶職人。右目に眼帯をしている。

・左手の指を二本失う(第1章第3話)

・仕事仲間のヌイトをクイに殺される。(第1章第3話)

・ヒノイシと共にある。

ミツ(トステ国のミツ)

・着物の染め師

・トヌマ(クイ)に好意を持つ(第1章第5話)

・幼馴染のカイヤの夫ロトが戦で死亡(第1章第6話)

・妃マルナのお気に入り

・ミズノイシと共にある。

フーナ(ナッカ国のフーナ)

・旅芸人一座の担い手

・同じ舞い手のチルミがタズ将軍(ドガ)に殺される。(第1章第8話)

・クイを装い逃亡中

・カゼノイシと共にある

オング(トステ国のオング)

・クイであるが普段は炭鉱夫。

・トヌマとは知り合い。

・鍛冶職人虐殺に加担。ヌイトを殺害する。

・養子ノアを失う(第1章第12話)

・ツチノイシと共にある。

ゴンガ(ナッカ国)

カチの友人。大将に就任する。

クナル(ナッカ国)

ナッカ国元帥。

ムタイ(ナッカ国)

元大将

ネスロ(ナッカ)

中将でムタイの腹心の部下

デング(ナッカ国)

フーナのいる一座の座長。娘チルミをタズ将軍(ドガ)に殺される

トヌマ(トステ)

・クイでオングの知り合い。

・マルナの護衛。

マルナ(トステ)

天子スミナルの妃

カイヤ(トステ国)

ミツの幼馴染。夫(ロト)を戦で失う。

ガイダル(センゴク村)

センゴクに住む老婆。

グイダル(センゴク)

センゴクに住む老夫

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