第7話 アマノイシ
文字数 2,597文字
『よく来た。人の子よ。私はアマノイシだ。』
アマノイシが話すと、空気が震えているようだった。四人は一瞬あっけにとられたが、すぐにその場に座り直し礼をとった。
『本来、私に姿形は無い。だが、お前達と話しやすいようにこの場を作った。お気に召したかな?』
そう問われても、どう答えていいのやら分からなかった四人は、ただただ恐縮していた。
アマノイシは少し笑ったように見えたが、話を続ける。
『お前達も、少しは自然を操る力を身につけたようじゃな。だが、それで終わりではない。お前達はこれから先、それ以上の力を身にまとう事になるだろう。』
「これから先?」
カチが思わず聞き返した。
『お前達は「人間を救う」その為にここへ来た。そうであろう?』
四人は息を飲み、頷いた。アマノイシは一体何をしろというのか…。
『お前達も分かったと思うが、人間を滅ぼすのは簡単だ。四神の力を持ってすれば、明日にでも人間を滅ぼす事は可能だろう。』
四人は、それはそうだろうと思った。自分達ですら、身につけた力を悪用すれば、簡単に人を殺せてしまう。かつてガイダルとグイダルがそうだったように…。
『だが、人を救うのはやはり人でしかないのだ。私も四神もお前達人間を救う事は出来ぬ。』
「そんな…。」
ミツが思わず、声を上げた。何のためにここまで来たのか、その目的が目の前で崩れ去るように感じた。オングが諦めきれずにアマノイシに問う。
「では、なぜここに私達を集めたのですか?」
『良い質問じゃ。理由は三つある。一つはお前達の中に眠る自然を操る力を覚醒させる為、二つ目は今の状況をお前達が知る為。三つめは…我の助言だ。』
「私達に分かるように教えてくださいますか?その全てを。」
フーナが真剣な眼差しでアマノイシを見つめた。他の三人も同様に、アマノイシの言葉を聞き洩らすまいと身構える。
『一つ目のお前達の自然を操る力だが、先程も言ったように、お前達は今以上の力を持つだろう。ここまでの旅は、そのきっかけにしか過ぎぬ。これから先、お前達がそれぞれの国に帰り、その力を覚醒していくのだ。そこまでは良いな?』
四人は、納得はしなかったが頷くしかなかった。
『二つ目の今の状況だが、それはお前達の国の状況だ。お前達の国は、このまま行けばそう遠くない未来に、全ての人間達を巻き込むような戦を起こすだろう。兵士として戦わずとも、全ての人間が殺し合いに巻き込まれていく…。』
「…兵士じゃなくても?」
驚いたカチは、声を出さずにはいられなかった。アマノイシはゆっくりと頷いた。
『そうだ。戦が戦を呼び、食べ物を始め、色々な物が不足する事で略奪が起きる。そして、女子供とて容赦なく殺されていくだろう。』
「…なぜ、そのような事が分かるのです?」
オングが冷静に聞くと、アマノイシは微笑んだ。
『お前達より、気の流れを感じる事が出来るのでな。燻ぶっている
火種
がいずれ炎となる姿が見えるだけの事。分かりやすく言えば、少し未来が見えるだけだ。』「あなた様に、その
火種
を無くすことは出来ないだか?」ミツは諦めきれずにアマノイシに尋ねた。これほどの存在が何故人間を救えないのか、理解が出来なかったのだ。
『私は創造の神だ。世界を創る事は出来ても、その世界で
生み出された者
の運命を変えてやることは出来ぬ。変えるのはお前達自身だ。』ぴしゃりと言ったアマノイシの言葉に四人は黙ってしまった。
…暫くして、思案していたオングが口を開く。
「…だから、四神は居ても、人に神がいないのですね…。」
『…気づいたようだな。火・水・風・土は、この世界の基礎だ。私が創ったのはそこまでにすぎん。そこで生まれた生物は、お前達人間を含め、自然が生み出した言わば「奇跡」なのだ。それは同時に、自然が生み出した「意志」でもある。』
「そうか…だから、ガイダルが言ったように、人間はもともと自然を操る力があったと…。」
フーナが合点が言ったように、呟いた。アマノイシは満足したように笑顔を見せる。
『分かって来たか。四神ですら、気づいていなかったようだが…。そもそも火・水・風・土から生まれたお前達人間に、その力が備わっていないわけはないのだ。ガイダル達が話したように、力の大小はあってもな。時と共に失われていったのは、人間自身が自然を感じる力を失っていっただけの事。』
カチが更にアマノイシに尋ねた。
「なぜ、四神ですら気づかなかったのですか?」
『何事も知ろうとしなければ、知り得ない。それは四神とて同じことだ。彼らも気づかねばならぬ。人間という存在自体が
自分達が生み出した
ものだという事を。この世界は全てのものが繋がっているのだ。』四人は、自分という存在が世界と無関係ではないという事に、改めて気づかされた。
フーナが迷ったようにアマノイシに尋ねる。
「あの…三つ目の『助言』とは何でしょう?今までのあなたの話では、その助言を聞いていいものかどうか、分かりませんが…。」
「何でだよ、フーナ。聞かなきゃ、どうしたらいいか分かんねえだろう?」
「カチ!馬鹿ねえ。私達の運命は私達で変えろって言われたばかりでしょ?」
「あ…そうか。すまん。」
二人のやり取りを見て、アマノイシは面白そうにしていた。
『お前たち人間は、やはり面白いのう。いや、風の子の言う通りなのだが…。そうだな、ここまで来た褒美とでも思ってもらえばいいかのう。』
四人は息を飲んでアマノイシの言葉を待った。そして発せられた言葉に全員が驚愕する。
『先ずは、国を滅ぼせ。』