第1話 「ナッカ国」と「トステ国」

文字数 1,551文字

ナッカ国の朝は、男達の気合いの声で始まる。
綿の衣を前で合わせ帯を巻き、その上から鎖帷子(くさりかたびら)を装着し、ある者は剣を、またある者は薙刀を構え、気合いの声と共に振り下ろす。どこの家でも同じ時間に行われ、一通りの基本の型を半時程繰り返す。「タンカ」と呼ばれるこの鍛錬は、ナッカの男達の義務であった。その間、女達は窯に火をくべ朝餉(あさげ)の準備をし、三才以上の子供であれば、男子は「タンカ」を。女子は母親の手伝いをする。男子は徴兵制があり十二才になると、兵役の義務がある。兵役は十八才までだが、その後は国の要請があり次第、兵士として働くことになる。二百年続くナッカ国の伝統は代々受け継がれてきた。

ナッカの政治は主に文官と武官に別れ、国の長は武官から選ばれた元帥がその地位にあたる。基本的には文官が制度や法律を定め裁判なども行っているが、国を左右する事柄は元帥が決めていた為、必然的に武官の方が力を持ち、文官は国の雑務を行っているというのが現実だった。武官の中でも、精鋭部隊とされる「ドガ」は元帥の右腕部隊とも言われ、その強さからナッカの男達は誰もがドガを目指し憧れていた。

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トステ国の朝は、祈りから始まる。
男も女も日の出と共に起き、白装束をまとい外に出ると、皇室の置かれる方角を向いて祈りを捧げる。膝をつき、空に向けた両手をそのまま皇室に向け、手を合わせながら祈りその両手を地面に降ろす。この際「我、天子様に神のご加護を祈る者なり。天子様の健やかなること、我の喜びなり。」と唱える。この動作を各地に設けられた「神所(しんじょ)」と呼ばれる神官の住む建物に設置された鐘の音と共に十回行った後、水を頭からかぶり身を清める。冬の寒い時期でも毎日行われるこの儀式は「ムト」と呼ばれた。
トステの人達はとにかくよく働く。農業が主であるが、町では商人達が着物や薬草等を売り買いするお店もあり、それに順じて食べ物屋等も軒を連ね栄えていた。また国民は「天子様のご加護を受ける為」と称し、どの職業でも収入の半分を皇室に納める義務があった。

トステは、皇室が中心となり天子と呼ばれる国の長が存在し、神官と共に(まつりごと)を行っている。天子は代々嫡男が後を継ぐ世襲制で、神官は神託を受け天子に助言をする形で国の制度などを決めていた。軍隊は皇室直属で、天子の許可なく軍を派遣する事は出来ない。(いくさ)の際は、その都度任命された大佐のもとで軍隊が組織される。皇室の兵士として働く者もいたが、戦に借り出されるのは多くが農民であった。またトステには「クイ」と呼ばれる天子の護衛をする影の隠密部隊が存在する。クイは剣の腕は勿論だったが、情報戦にも長け、護衛の一方で内外の情報を入手し、国内の不穏な動きを一早く察知すると共に、隣国であるナッカの要人暗殺なども行っていた。

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マグノは大きく分けてナッカ国とトステ国で構成される。その他の小国もどちらかの国の支配下にある。
もともとマグノは、国という概念を持ってはいない人々が暮らしていたが、三百年程前から、人々は小競り合いを繰り返し、結果二つの国へと徐々に別れて行った。ナッカは軍事力を強化し、トステは国力を高めていった。両国がマグノを二分するまでに百年を要したが、その後二百年もの間、両国で小競り合いは続いている。個々の武力ではナッカが勝るが、武器の開発などはトステが進んでおり、微妙な均衡を保っていた。そして、それぞれの国が強国になればなるほど、その小競り合いも激化していったのだった。




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登場人物紹介

アマノイシ(創造の神)

ヒノイシ(火の神)

カチの目を持つ

ミズノイシ(水の神)

ミツの目を持つ

カゼノイシ(風の神)

フーナの目を持つ

ツチノイシ(土の神)

オングの目を持つ

カチ(ナッカ国のカチ)

・鍛冶職人。右目に眼帯をしている。

・左手の指を二本失う(第1章第3話)

・仕事仲間のヌイトをクイに殺される。(第1章第3話)

・ヒノイシと共にある。

ミツ(トステ国のミツ)

・着物の染め師

・トヌマ(クイ)に好意を持つ(第1章第5話)

・幼馴染のカイヤの夫ロトが戦で死亡(第1章第6話)

・妃マルナのお気に入り

・ミズノイシと共にある。

フーナ(ナッカ国のフーナ)

・旅芸人一座の担い手

・同じ舞い手のチルミがタズ将軍(ドガ)に殺される。(第1章第8話)

・クイを装い逃亡中

・カゼノイシと共にある

オング(トステ国のオング)

・クイであるが普段は炭鉱夫。

・トヌマとは知り合い。

・鍛冶職人虐殺に加担。ヌイトを殺害する。

・養子ノアを失う(第1章第12話)

・ツチノイシと共にある。

ゴンガ(ナッカ国)

カチの友人。大将に就任する。

クナル(ナッカ国)

ナッカ国元帥。

ムタイ(ナッカ国)

元大将

ネスロ(ナッカ)

中将でムタイの腹心の部下

デング(ナッカ国)

フーナのいる一座の座長。娘チルミをタズ将軍(ドガ)に殺される

トヌマ(トステ)

・クイでオングの知り合い。

・マルナの護衛。

マルナ(トステ)

天子スミナルの妃

カイヤ(トステ国)

ミツの幼馴染。夫(ロト)を戦で失う。

ガイダル(センゴク村)

センゴクに住む老婆。

グイダル(センゴク)

センゴクに住む老夫

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