第12話
文字数 1,093文字
フラニーはそっと男性のようすをうかがった。こざっぱりとして粋なスーツ、ポマードで当世風に撫でつけられたヘア。少し長めの前髪が額にかかるのをやや神経質そうな細い指先でかきあげると、知性と品のよさを漂わす秀でた額が現れた。なるほどこのような場末のダンスホールではあまり見ないタイプの粋な伊達男である。するとこちらが見ているのに気づいたのか、ばっちりと目が合ってしまった。場内は薄暗くやや距離もあったが、その射抜かれるような瞳にとらえられるとフラニーは、ドキリとしてその場から動けない。あわてて視線をそらし傍らにいるベスの影に隠れながら
「もうっ! ベスがへんなこと言うから、意識しちゃうじゃないの」
「フラニー、そろそろあんたにもボーイフレンドが必要よ。それとも、おこちゃま過ぎてまだフラニーちゃんには早いのかしらん?」
「ベスったらもう! からかわないでちょうだい」
幼なじみで同い年ながら早熟で社交的なベスは頼りになる姉のような存在で、よちよち歩きの時分から貧民街の片隅でじゃれ合うようにして成長してきた二人は、まさに姉妹のような関係でもあった。クスクス笑いをしながら女の子どうしで盛り上がっていると
「ベス、darling。ここにいたんだね」
「エリック、my dear」
演奏を終えたエリックがやってきた。恋人たちは口づけで愛のあいさつを交わす。
「僕のドラムどうだった?」
「ふふふ、今晩も素敵だったわ。ほら、フラニーよ。ケニーの妹の」
「やあフラニー、ずいぶんお洒落してるから気づかなかったよ! ケニーは元気にしてる?」
「ええ、兄さんは家にいてよ」
「そうか、君の兄さんは堅物だからなあ。たまには出て来いって言っといてくれよ」
いかにも遊び人といった風情のエリックは軽くウィンクしながら言う。
「そうね、伝えるわ」
「あ、この曲好きなのよ! ねえ踊りましょうよ。フラニーは?」
「私はいいの」
「そう、じゃあしっかりね」
ベスは意味ありげな視線をフラニーに送ると、エリックに肩を抱かれながらダンスフロアへと消えていった。
恋人、ね。フラニーは幸せそうな親友カップルを遠目に見ながら思う。そりゃあ私の事を大切にしてくれる、優しくて素敵な人がいたらなあって思うわ。もし恋人にするなら、そうね、清潔感があって真面目そうな人がいいかな。えっと、スラリと背が高くて、いつも穏やかに微笑んでいるような。それで私をプリンセスみたいに大事にエスコートしてくれて優しくキスをして、それから二人はみんなに祝福されながら結婚式を挙げて、……
夢見がちな少女らしい妄想に浸っているフラニーの目の前に、突然グラスが差し出された。
「もうっ! ベスがへんなこと言うから、意識しちゃうじゃないの」
「フラニー、そろそろあんたにもボーイフレンドが必要よ。それとも、おこちゃま過ぎてまだフラニーちゃんには早いのかしらん?」
「ベスったらもう! からかわないでちょうだい」
幼なじみで同い年ながら早熟で社交的なベスは頼りになる姉のような存在で、よちよち歩きの時分から貧民街の片隅でじゃれ合うようにして成長してきた二人は、まさに姉妹のような関係でもあった。クスクス笑いをしながら女の子どうしで盛り上がっていると
「ベス、darling。ここにいたんだね」
「エリック、my dear」
演奏を終えたエリックがやってきた。恋人たちは口づけで愛のあいさつを交わす。
「僕のドラムどうだった?」
「ふふふ、今晩も素敵だったわ。ほら、フラニーよ。ケニーの妹の」
「やあフラニー、ずいぶんお洒落してるから気づかなかったよ! ケニーは元気にしてる?」
「ええ、兄さんは家にいてよ」
「そうか、君の兄さんは堅物だからなあ。たまには出て来いって言っといてくれよ」
いかにも遊び人といった風情のエリックは軽くウィンクしながら言う。
「そうね、伝えるわ」
「あ、この曲好きなのよ! ねえ踊りましょうよ。フラニーは?」
「私はいいの」
「そう、じゃあしっかりね」
ベスは意味ありげな視線をフラニーに送ると、エリックに肩を抱かれながらダンスフロアへと消えていった。
恋人、ね。フラニーは幸せそうな親友カップルを遠目に見ながら思う。そりゃあ私の事を大切にしてくれる、優しくて素敵な人がいたらなあって思うわ。もし恋人にするなら、そうね、清潔感があって真面目そうな人がいいかな。えっと、スラリと背が高くて、いつも穏やかに微笑んでいるような。それで私をプリンセスみたいに大事にエスコートしてくれて優しくキスをして、それから二人はみんなに祝福されながら結婚式を挙げて、……
夢見がちな少女らしい妄想に浸っているフラニーの目の前に、突然グラスが差し出された。