第19話

文字数 952文字

 フラニーは言われるがまま硬くて粗末なパイプベッドの上に横たわると、女が注射器と細長い金属の棒のようなものを持って近づいてくる。怖くなり目をぎゅっと固く閉じるフラニー。すると腕にチクリと針が刺さるのを感じ、そのまましびれるように意識が遠のいていった。
 
 そして夢を見た。
 暗闇のなか天井からアルベルトの白い生首がにゅっと現れ、それが徐々に近づいてくる。その目は血走りカッと見開かれ、歯を見せてニタニタと不気味な笑みを浮かべている。

「いやっ! いやっ! 来ないで!」

 必死で逃げようとするフラニーだがベッドの上で手足は鉛のように重く感じられ、まったく動かすことができない。そうこうするうち間近まで来たアルベルトの口からこんどは、一メートルはあろうかという長い舌が伸びてきて、フラニーの全身を舐め回しはじめる。顔、首筋、脇の下、腕、指先、手のひら、足の指、ふくらはぎ、腿、お尻、胸、お腹、おへそ、そして……

「痛いっ! 痛いっ! 痛いいいぃぃぃぃぃ!」

 長い舌はいつしか固くとがり無理やり局部に挿入され、鋭い痛みが全身をつらぬきそのままグチャグチャとかきまわされる。それはお腹に穴が開いてしまったのかと思う程の、激しい痛みであった。
 
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛いわ!

 どれぐらいの時間が経ったのか、フラニーは激痛に身悶えしながら恐ろしい夢から目を覚ました。しかし痛みは継続している。これは悪夢を超える悲惨な現実なのである。

「い、痛い……痛い……痛い……」

 うわ言のようにうめき声をあげるフラニーの額の汗をハンカチで押さえてやりながら、ベスは女に

「ちょっと、すごく痛そうよ、大丈夫なの!?」

「うるさい小娘だねえ、そりゃしばらくは痛みも出るさ、当たり前のことじゃないか。そら、これを飲むんだよ」

 女は痛み止めだという錠剤を不潔なグラスに入ったぬるい水とともに、サイドテーブルにドンと乱暴に置いた。

「さあ、これでラクになるさ。後が詰まってるんだ、とっととベッドを開けとくれ」

 ベスに支えられてフラニーはやっと体を起こすとなんとか薬を飲み下す。

「フラニー、大丈夫フラニー? さあしっかりつかまってちょうだい」

 ベスにしがみつくようにしながらよたよたと歩いてフラニーは、二度と思い出したくもない呪われた部屋を後にした。
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