第6話
文字数 1,182文字
「お父さま、お母さま、エルザ、ウィリアム!」
「アルベルト!」
「お兄ちゃま!」
首都ファンネルンに着き見知らぬ粗末な家の地下室に連れてこられたアルベルトは、その薄暗い部屋の中で数日ぶりに家族との再会を果たした。なんでも、アルベルト以外の家族は捕らえられ一旦地下牢に入れられたものの、すぐここに移され軟禁状態に置かれていたらしい。だから少なくとも、アルベルトよりは待遇が良かったようだ。
「よかった……。どれだけ心配したことか」とアルベルト。
「額に怪我をしているわね? 酷いことをされたの?」
猟銃の柄で殴られた傷だ。
「いいえお母さま、大したことはありません」
「おおアルベルト、かわいそうに。でもお前が無事でいてくれて本当に良かったわ」
一家はしっかりと抱きあい、お互いの無事を確認し涙を流して喜んだ。だが手錠や拘束こそないが軟禁状態であることに変わりはなく、部屋のドアの前には常に銃を持った見張りがいる。自由のない屈辱の日々を送るはめになった伯爵一家はそれでも、身を寄せ合いお互いをかばいあってこの不幸な処遇を耐えしのいだ。
食事は規則正しく与えられ飢えることはなかったが、その内容ときたら! ガチガチに固いうえ雑穀混じりで汚い茶色のパン、茹でただけでソースすらかかっていない野菜、ぼそぼそと味気のないチーズ。あまりの酷さにアルベルトは食事を運んでくる者に文句を言ったが、いかにも卑しく無作法な青年はそのくせアルベルトを冷ややかに見下しながら
「私たち家族が食べている物とまったく同じだ」
と言い捨てた。
精巧なレース細工のように繊細なお母さまと春の海のように穏やかで優しい四つ上の兄ウィリアムはすっかり打ち沈み、プライドの高いお父さまはあまりの怒りに口もきけないご様子、まだ八歳の無邪気なエルザはかわいそうに怖がって震えているばかり。だから今年で二十一歳になる自分がしっかりしなければならない。アルベルトはそう決意して気を強く持ち悲惨な生活にもぐっと歯を食いしばり耐え忍んだ。一ヶ月ほど経った頃だろうか。いかにも下劣で粗野な風貌の男どもが、生意気にも将校さながらの立派な皮のブーツでドカドカとやってきて
「お前たちの処遇が決定した!」
と告げるやいなやロンバネス伯爵一家は引っ立てられ病院らしきところへ連れていかれ、アルベルトは鉄の扉が付いた牢獄のような部屋に一人いれられた。
部屋の作りの堅牢さから、そこはおそらく精神病棟ではないかと思われた。毎日錠剤を渡され目の前で飲むように言われ口を開いて確かに飲み下したかの確認までされるので従うしかなく、アルベルトは何種類もある得体の知れない薬を気味悪く思いながらも飲みこんだ。すると頭の中が痺れたようになり意識が遠のき、気がついたら点滴をされベッドの上で寝かされていたり、夢とも現実ともつかぬ奇妙な体験をするようになった。
「アルベルト!」
「お兄ちゃま!」
首都ファンネルンに着き見知らぬ粗末な家の地下室に連れてこられたアルベルトは、その薄暗い部屋の中で数日ぶりに家族との再会を果たした。なんでも、アルベルト以外の家族は捕らえられ一旦地下牢に入れられたものの、すぐここに移され軟禁状態に置かれていたらしい。だから少なくとも、アルベルトよりは待遇が良かったようだ。
「よかった……。どれだけ心配したことか」とアルベルト。
「額に怪我をしているわね? 酷いことをされたの?」
猟銃の柄で殴られた傷だ。
「いいえお母さま、大したことはありません」
「おおアルベルト、かわいそうに。でもお前が無事でいてくれて本当に良かったわ」
一家はしっかりと抱きあい、お互いの無事を確認し涙を流して喜んだ。だが手錠や拘束こそないが軟禁状態であることに変わりはなく、部屋のドアの前には常に銃を持った見張りがいる。自由のない屈辱の日々を送るはめになった伯爵一家はそれでも、身を寄せ合いお互いをかばいあってこの不幸な処遇を耐えしのいだ。
食事は規則正しく与えられ飢えることはなかったが、その内容ときたら! ガチガチに固いうえ雑穀混じりで汚い茶色のパン、茹でただけでソースすらかかっていない野菜、ぼそぼそと味気のないチーズ。あまりの酷さにアルベルトは食事を運んでくる者に文句を言ったが、いかにも卑しく無作法な青年はそのくせアルベルトを冷ややかに見下しながら
「私たち家族が食べている物とまったく同じだ」
と言い捨てた。
精巧なレース細工のように繊細なお母さまと春の海のように穏やかで優しい四つ上の兄ウィリアムはすっかり打ち沈み、プライドの高いお父さまはあまりの怒りに口もきけないご様子、まだ八歳の無邪気なエルザはかわいそうに怖がって震えているばかり。だから今年で二十一歳になる自分がしっかりしなければならない。アルベルトはそう決意して気を強く持ち悲惨な生活にもぐっと歯を食いしばり耐え忍んだ。一ヶ月ほど経った頃だろうか。いかにも下劣で粗野な風貌の男どもが、生意気にも将校さながらの立派な皮のブーツでドカドカとやってきて
「お前たちの処遇が決定した!」
と告げるやいなやロンバネス伯爵一家は引っ立てられ病院らしきところへ連れていかれ、アルベルトは鉄の扉が付いた牢獄のような部屋に一人いれられた。
部屋の作りの堅牢さから、そこはおそらく精神病棟ではないかと思われた。毎日錠剤を渡され目の前で飲むように言われ口を開いて確かに飲み下したかの確認までされるので従うしかなく、アルベルトは何種類もある得体の知れない薬を気味悪く思いながらも飲みこんだ。すると頭の中が痺れたようになり意識が遠のき、気がついたら点滴をされベッドの上で寝かされていたり、夢とも現実ともつかぬ奇妙な体験をするようになった。