第38話 

文字数 752文字

 混濁する意識の中そのやり取りをぼんやりと聞いていたアルベルトはハッとして正気に戻り、床に倒れたまま見上げるようにして犬男=兄ウィリアムの方を見た。手枷足枷姿で引っ立てられるようにして再度、舞台中央のアルベルトがいるあたりまで連れてこられたウィリアム。するとアルベルトもまた椅子ごと起こされ兄の真横に並べられた。

「に……、兄さん? 兄さん、僕たちはなんだかとんでもない誤解を受けているみたいだ。どうしよう兄さん」

 しかし見上げたウィリアムの顔色は血の気をまったく失ったかのように青白く、そのくせ瞳はギラギラと異様な光を帯びて輝き下唇を切れるかと思うほどぎゅっと噛み締めている。

「ウィリアム兄さん、どうしたの、なんとか言ってよ兄さん!」

 しかし兄ウィリアムは弟の方を見向きもせず、沈黙したまま動かない。恐ろしい予感にアルベルトは、無意識のうちに全身をガタガタと震わせていた。

これはこれは……おもしろいことになってきましたよ! ええと、ここらでちょっと整理しましょうかね。界隈の娘たちに悪魔の所業を繰り返したやつの名前はアルベルト・ローハン本名アルベルト・フォンダイン・ロンバネス、この椅子に縛ってある方ね。そんでお隣の犬男がその兄、ウィリアム・フォンダイン・ロンバネス。ほほう、いやまてよ、じゃあこれはもしかして、兄が弟の名前を偽名に使い自分の悪事が万が一ばれた時には弟に罪をなすりつけちまおうってえ寸法なんじゃねえですかい。え、お大尽さまよ、どうだいこのシャーロック・ホームズ顔負け俺さまの名推理はさ!

 司会の小男はしゃべりながら、持っていた金属製の棒で犬男の頭をトーントントーンとリズミカルに小突いた。犬男の頭がぐわんぐわんと揺れる。

「に、兄さん、なんとか言ってよ、ねえ、まさかそんなはずはないだろう」
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