第24話 ダルマ男

文字数 941文字

さあさ次にお目にかけますのは、押せばコロリとひっくり返りそれでもなおまた起き上がる、これぞ七転び八起き世にも奇妙なダルマ男でござい。トンコロリ、トンコロリ、トントンコロリトンコロリ。なんともいじらしい不屈の精神じゃありませんか。あたしはね、このダルマ男がなんど倒されてもムクリムクリと起き上がる様を見ておりますとですね、なんともはや胸がこう、熱くなる思いなんでございますよ……なになに、お前のくだらん感傷はいらんダルマ男を早く出せ? あいやそりゃごもっともでして旦那、げへげへげへ。あたしはどうも興奮しやすいタチでしてね、あいすみませんねはい。お待たせさんでござんした。はい、こちらが世にも奇妙なダルマ男でござい!

 台車に載せられてステージに現れたのは、大きな木の椀のようなものに乗った大ダルマ。しかして立派なカイゼル髭をたたえたその顔は。我がお父さまに違いないのだ、ああ! 

 両脚両腕がなく胴体のみとなり大椀の中に入れられダルマ男と呼ぶにふさわしい哀れな姿となった父・ロンバネス伯爵を目の当たりにしたアルベルトは、髪の毛を激しくかきむしりながら大きく頭を振った。

「うそだ、うそだ、お父さま、うそだうそだうそだ……」

 すると口上を述べていた小男がやおらダルマ男を突き飛ばした。衝撃で台の上に頭を打ち付け転がるダルマ男、しかし椀の底が丸く半円を描いているため反動でまた起き上がってくる。

「ウ、ウ、……」

 おでこから血を流し苦しそうにうめくダルマ男。

「やめてくれ!! 血がでている、怪我をしているじゃないか!!」

 叫ぶアルベルトの声はまわりの群衆のヒステリックな笑い声にかき消され届かない。どころか、人々が次々と舞台の上に這いのぼり我先にとダルマ男であるお父さまを突き倒しては起き上がる様を見て笑い転げているではないか。

「ヒャーッハッハッハワーッハッハッハッ」

 破れ鐘のような笑い声が小屋じゅうに響き渡り頭がガンガンと痛みだす。まるで頭が真っ二つに割れてしまうかと思われる痛みに耐えかねたアルベルトは、両腕で頭を抱え床にしゃがみ込み身悶えする。

「うう〜……や、やめてくれ……後生だから……」

 しかしアルベルトの弱々しく哀れなうめき声は、周囲の騒音にむなしくもかき消されていくのであった。

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