第43話

文字数 825文字

「ハーイ、アルベルト。あたしべスよ、よろしくね」

「俺はエリックだ」

 ベスがハンカチでパタパタと顔を扇ぎながらフラニーに話しかける。

「フラニー、今日はずいぶんノリがいいじゃないの」

「うん、なんだか体が軽くって自由に動ける感じなの」

 蝶々のように手をヒラヒラさせながら高揚した様子のフラニー。ふふふ、そうだろうよ。今日のレモネードには上等な阿片シロップが入ってるんだからな。そんな事を思いつつも

「あなたにはきっと天性のリズム感があるんですよ、僕は音痴で恥ずかしいな」

「あら、アルベルトさんのダンスも優雅で素敵よ」

 フラニーの褒め言葉に微笑を作るウィリアムであった。
 
「ねえアルベルト、さん、家は近いの?」とベス。

「アルベルトでいいですよ、そうですね、自宅はちょっと遠いんですけど親戚がこの辺にいて、今日はそこで」

「あら、どの辺り?」

「マーケットの方ですよ」

「なら方角的にはフラニーの方ね」

「そうでしたか。じゃあぜひお供させて下さいませプリンセス、夜道は危のうございますから」

 ピョコンと頭を下げながらおどけた様子で言うウィリアムに若者三人は大笑いした。よし、邪魔者たちとはうまい具合に別れることができそうだな。ウィリアムは内心ほくそ笑みながら自分の幸運を喜んだ。

 ダンスホールを後にし、腕を組んで歩く女たち二人の後ろから男同士喋りながら歩いた。何を話したかなんて覚えちゃいない。黒んぼと話すことなんて何もないから、適当に相づちを打ったり軽口を叩いたりしていたのだろう。

「ベス、僕たちはこっちだね」

 交差点に来るとエリックが女たちに呼びかけた。ふう、これでやっと解放される。

「アルベルト、プリンセスの警護は君に一任しよう」

「かしこまりました閣下! きっとご期待に沿うよう万全の警備でプリンセスをお送りいたします!」

 ウィリアムがおどけた軍隊口調で敬礼して見せるとみんな笑った。もちろんしっかりエスコートしますとも。大切な今晩の獲物、誰にも渡さないさ……。


 
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