第21話

文字数 1,068文字

 様子を聞き大慌てでやって来たターナー医師はすぐさま脈をとり意識を失ったフラニーのうっすら汗ばんだ様子や蒼白な顔色、青白くなった爪を見て

「いけない、出血が多い。脈も弱くなっている。一刻を争う、ターナーからの要請だと言ってすぐに救急車を呼ぶんだ!」

 言いつつ診察カバンから応急処置的にアンプルを取り出し注射した。しかしフラニーはぐったりとしたまま動かない。再度飛び出し緊急電話をかけ家に戻ったケニーは、近づく救急車の音を聞きながらこちらも倒れそうな母親を支え座らせ、ただただ祈るしかないのであった。



「フラニー、フラニー! そんな……ついさっきまで一緒にいたじゃない、ねえフラニー、嘘でしょう? あたしたちは姉妹じゃないの、ねえ、フラニー行かないでちょうだいあたしを置いて、だめよフラニーこんなのだめ!」

 物言わぬ少女の体にすがるようにして、病院のベッドに突っ伏しワッと泣きだしたベス。病院に到着しすぐさま手術が施されたのだが時すでに遅し。不衛生で適切でない鋭利な器具で子宮内部にできた傷口から、重篤な感染症を起こした上でのことだった。

 こうして花の命はあっけなくも散ってしまった。兄のケニーは冷たく青白い妹を見下ろしながら呆然と突っ立っていたが、悲嘆にくれるベスを見てその肩にそっと手を置いた。とたんにベスはビクリとなり振り向くとしゃくりあげながら、

「ご、ごめんなさい、ケニー、あ、あたしのせいなの、あたしが、あたしが、わるいのよ、」

「なにを言ってるんだ、どういうこと?」

 ベスはハンバートン・クラブでのこと、その晩フラニーに降りかかった恐ろしい出来事、そして薄暗いアパートでの罪深き処置の話をしゃくりあげ途中つまりながらも一通り話した。ケニーは青い顔をしてだまって耳を傾けていたが、握られた両のこぶしは震え爪が手のひらをえぐるほど食い込み、煮えたぎるような憎悪がふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。しかし表面上はあくまでも平静を装いながら、

「……ベス、わかったよ。でもそれは君のせいなんかじゃない。そもそもの元凶は、そのアルベルトとかいうクズ野郎じゃないか。必ず探し出して僕の手で、絶対にぶっ殺してやる」

 穏やかで優しいケニーから罵り言葉などついぞ聞いたことがなかったベスは、驚いてケニーの顔をまじまじと見た。その瞳はギラギラと異様な輝きをおび、こめかみの血管が透けるほど浮き上がり視線は中空のあらぬ一点を凝視したまま動かない。
 そのまるで人が変わったような表情を見て恐ろしくなったベスはそれ以上、何も言うことができなくなった。

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