第54話

文字数 1,107文字

 こうしてピーターは第二の殺人からもまんまと逃げおおせ、寄宿学校を卒業すると大学の医学部に進んだ。人間を切り刻み縫合するといった事が「合法的に」できる外科医になるためである。
 頭も良く手先も器用で血にも動じないピーターは学科でも実技においてもトップクラスの成績を修め、順風満帆の日々を送っていた。しかしやはり生来の欲望が頭をもたげ、ある時。ついに人生の破滅につながる決定的な事件を起こす。

 ピーターの二年後輩だったジョナサンは、優秀な先輩を尊敬し自分もまた後に続こうと勉学に励む真面目な青年だった。しかしその真面目さが災いし、先輩に言われるがまま使われていない研究室に呼び出され命を落とすこととなる。
 もっとも、ピーターは初めからそうするつもりだった訳でなく素直で従順なジョナサン、長いまつ毛と薄紅色の頬を持つ繊細な青年、の巻き毛をいじりながらキスをすることの方が重要な目的であった。
 これに対し最初は戸惑いを見せたジョナサンであったが、そもそもピーターに尊敬の念とともに並々ならぬ好意を寄せていたので、そう時間もかからずうっとりとなされるがままとなった。
 するうち徐々に興奮が増してきたピーターは思わず近くに置いてあったメスを取り上げジョナサンの、男にしては細い首の表面を縦になぞるように浅く切り込みを入れにじみ出る血の筋をゆっくりと舐めた。しかし首を切られて驚き覚醒したジョナサンが、大声を上げようとしたのでピーターはつい、深く刺してしまった。真っ白い喉元から吹き上がる血のしぶきをシャワーのように受けながらピーターは、美しい夢の世界へといざなわれ我を失い……そのまま絶頂に達した。

 ところが運のわるいことに、普段は使われていない物置のような部屋だったのだがたまたま実験に使用する器具を探しに来た学生と鉢合わせしてしまい……

そっから先はね、語るも涙、聞くも涙でさあ。精神に問題アリちうことで医療刑務所に入れられて、もういいだろうてことで普通のオリに入れられて、変態野郎といじめ抜かれてあれやこれやご婦人方の前ではとっても言えないようなことをね、いろいろされましてねえ……おかげでこーんなに(ハゲ頭をペチンと叩いて)なっちまいましたよ、ええ、こう見えてもなかなかのね、見目麗しゅう男だったはずなんですがねえ。性根なんかもこれこの通り、すっかり下劣になっちまいましたわねげへげへげへ。刑務所はね、恐ろしいところ。魂なんてすっかり抜かれ持ってかれちまって自分なんてもんは、影も形もなくなっちまう。皆さんもね、どうぞお気をつけなされよ。こんなヒヒジジイになりたくなかったらわるい事なんてするもんじゃねえ。げへへ……。

 
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