第27話

文字数 1,022文字

「……アルベルト、ねえアルベルトったら」

「ああ、ごめんごめんぼんやりしてしまって」

「フフフ、今日はとても良いお天気ですものね、お腹もいっぱいだし眠たくなっちゃうわよね」

 たっぷりとしたレースが幾層にもあしらわれた白いサマードレスに身を包み、湖畔に敷いたブランケットに座りアルベルトに笑いかけるリリアン。湖面に反射する陽射しを受け、つばの広い白色の帽子からはみ出す栗色のウェーブヘアが日に透け金色に輝いている。食べ残したサンドウィッチやチェリーパイを片付けながら

「暑いわね、わたし喉が乾いちゃった。アルベルトもレモネードのおかわりいかが?」

「うん、もらおうかな」

 シルバーのカップに注がれたレモネードを二人で飲む。レモンの爽やかな風味が喉をうるおし湖を渡ってくる心地よい風が初夏の汗ばむ肌にひんやりと心地よい。

「ねえアルベルト、今度サラザール劇場で眠れる森の美女を演るんですって。わたし観たいわ」

「眠れる森の美女? どこのバレエ団が来るの?」

「カイザル王立バレエ団よ。プリマはシルヴィア・フォンテーヌですって。彼女の踊りは気品があって優雅で美しくて、オーロラ姫がまさにはまり役だってもっぱらの噂よ」

「そう、いいね。じゃあいつものボックスでぜひ観よう。でも……」

「え、なにかあって?」

「シルヴィア・フォンテーヌのオーロラ姫がどれほど良いのか知らないけど、君の優雅さと美しさに適うわけないからなあ。僕には退屈かもしれないよね」

 リリアンの頬がバラ色に染まる。

「まあ、アルベルトったらお上手ね。正直におっしゃい、バレエなんて面白くないって」

「ハハハそんなことはないさ、そりゃあ釣りに比べればそうかもしれないけど」

「やっぱりね。いいわ、ラサーナでも誘ってみるわ」

 少しすね気味に愛らしい口元をきゅっとすぼませるリリアン。

「いや待って、それでも僕はリリアン、君と観に行きたいんだ。実際のところ、君といっしょに居られるならば、あの絶望的に話しの長いマダム・ゴーティエのサロンにだって僕は喜んで行くさ」

「マダム・ゴーティエ! あの人に捕まったら大変よ、いつ終わるともしれない単調で退屈なストーリーを、あくびを品よく扇子で隠しながら熱心に聞いてるフリしないと、ご機嫌を損ねてしまうんですから」

「アハハ本当にね、困ったご婦人だよ」

「それでも結婚式にはぜひお招きしなくてはね、とにかく敵に回したくないタイプだもの」

「うん、まあ当たり障りなくやるしかないねその辺りは」

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