第46話

文字数 735文字

「う、うう………」

 東の空がうっすらと明け初めるころ、ソファのあるリビングに隣接するキッチンでコーヒーを入れ一息入れていたウィリアムの耳にフラニーのか細いつぶやき声が聞こえてきた。

「こ、ここは……? 私はいったい、何を……」

 のぞきに行くと、フラニーはふらふらと立ち上がり戸口へと向かっているようだった。

「起きたようだね」

 背後から声をかけるとビクッとして立ち止まり、驚いた顔で振り向いた。

「あ、あなたは、なんということを……!」

 しかし言葉は続かず、頭痛がするのか目を閉じ眉間にしわを寄せ頭を両手で抱えている。おそらく例のシロップの影響だろう。かわいそうだが、数時間もすればきっとよくなるはずだ。気が紛れるよう、コーヒーでも入れてやろう。

「ああ、昨日のはちょっと強すぎたかな。コーヒーでも入れようね」

「い、いりません」

「でもふわふわと漂うみたいに気持ち良かっただろう、効いてる間は」

「飲み物に……なにか入れたのね!?」

 するとフラニーはその場にぺたりと座りこみシクシクと泣き出してしまった。アルベルトはそんなフラニーを見下ろしながら面倒くさそうにため息をつき

「なにも泣くことはないだろう。アレはなかなかの上等品だったんだ、おかげで楽しい夜になったじゃないか色々と」

 そうだ。いま一度かわいがってやれば気分も上がるかな。アルベルトは少女のふるえる肩に手をかける。ぎょっとして弾けるように立ち上がったフラニーは

「私、帰ります!」

 言うが早いか戸口に向かうとそのまま外に出ていってしまった。ふん、まあいいさ。……ああ、さすがに疲れたな。そろそろ屋敷に帰って休むとするか。ウィリアムは伸びをしながら大きなあくびを一つすると、簡単に身支度を整え「趣味の部屋」を後にしたのだった。
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