第60話

文字数 877文字

リンゴ酒(アップルサイダー)、こっちにもひとつ」

「おめえまだ飲むつもりかよ! いい加減にしねえか、もうグデングデンだろうがよ。それに最近やせたんじゃねえか? 前にもまして貧相なツラしやがって」

「へん、うるせえなあダニー。おめえがブタみたいに太りすぎなんだろうがよ。俺はまだまだ飲みたりねえぞお。ほうれ、金ならあるんだからよ」

 隣に座った飲み仲間・ダニーの意見を無視し、グラスを洗っている無愛想なパブの親父に向かいカウンター越しに紙幣をヒラヒラと振ってみせる。

「ハッ! 勝手にしな。ある朝、目が覚めたら地獄で悪魔に囲まれてました、なんてことになっても知らねえぞ!」

「おめえこそブタみてえに肥え太ってトン死しねえよう気をつけな! ほれ、乾杯だ乾杯!」

 ダニーのグラスに自分のグラスをガチンと打ちつけ酒をあおるハゲ頭で中年の小男。だがすでにたらふく飲んでいたとみえすべて飲み終わらない内に

「ふうー、ああやれやれ。もう入んねえわ、おれあ眠くなった。帰る」

「ああ、そうしろそうしろ。じゃまたな」

「おう、」

 小男はアップルサイダーが少しだけ残ったグラスをバーカウンターに置くと、店の扉をあけそのまま出ていった。しこたま飲んだらしくおぼつかない足どりでヨタヨタと、それでもどうにか十分ほどで粗末なアパートにたどりつき、四階の自室まで急な螺旋階段を這うようにして行きベッドの上に倒れ込んだ。

 そのまましばらく酒臭く荒い息をしていたがやがて落ち着いてくるとムクリと起き上がり、流しの蛇口をひねって口を近づけそのままゴクゴクと飲んだ。手の甲で雑に口を拭い上の棚をあけ、ズラリと並んだガラス瓶に目をやる。大小さまざまな大きさがあり液体の中にそれぞれ、何だかよくわからないモノが入っている。
 部屋の主である小男はひとつの瓶を選び取り出すと大事そうに抱え、ベッドへと戻った。そして愛おしそうに瓶の上からキスや頬ずりをし、そのまま自分の股間へと片手を伸ばし自分を弄る。

「ああデビッド、デビッド……!」

 そしていまだ忘れえぬかつての恋人を想いながらピーター・マッケランは、悦楽の域へと達するのであった。
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