第22話 WOLF

文字数 1,097文字

 突然もたらされた娘の死。それまでやや落ち着いていた母親の病状はその後目に見えて悪化し、それからほんの二週間ほどで娘の後を追うようにあっけなく亡くなってしまった。簡単な葬儀を済ませるとケニーはたった一人、主を失ったまま並んだ二つの粗末なベッドの脇にある椅子に腰掛け、仕事にも出かけず何日もぼんやりとして過ごした。輝きを失った瞳はどんよりと濁りその姿はまるで生ける屍である。

「コツコツコツ」

 ドアをノックする音が聞こえてきたが、立ち上がる気力もなく黙って座っていた。すると扉がギイと開く音がして

「ケニー・マクドウェル君、いるかい?」

 もはや施錠もしなくなったドアから、見覚えのない青年が入ってきた。

「……誰?」

「ああ、突然すまない。俺は Warriors Of Labor Fire、通称 WOLFのマイケル・グラハムだ。君の妹さんの話を聞いたよ。心からお悔やみを申し上げる」

 男は胸に手をあて頭を垂れ、哀悼の意を示した。WOLF? ああなんか聞いたことがある。反体制派のグループだろう確か。

「それで……いったい僕になんの用です?」

「一緒に(かたき)を討つんだよ、君の妹さんにおぞましい事をしたやつのさ! 相手の男、アルベルト・ローハンのこと知ってるか?」

 黙って首を横に振るケニー。

「アルベルト・ローハンなんてのはただの偽名でね、本当の名はアルベルト・フォンダイン・ロンバネス、ロンバネス伯爵家の次男さ。やつは暇つぶしに時折この界隈に現れては若い娘をだまし、狼藉を働くということを繰り返してるんだ」

 アルベルトという名はベスから聞いていた、しかしそれ以上の情報がなく探しようもないと思っていた。うつろだったケニーの瞳に光が宿る。

「だからといって伯爵家の屋敷に押しかけたところで、門番どもに追い払われちまうのが関の山。だから結局、娘たちはいいようにされたあげく泣き寝入りさ。こんな貴族の横暴にはもう我慢ならん。俺たちが一致団結して戦って、革命を起こすしかないんだ!」

 マイケル・グラハムと名乗る男はケニーの両肩を大きく熱い手でがっしりとつかみまっすぐ瞳を見据えた。その燃えるような双眸には固い意志と信念が感じられ、信用するに値する男だとケニーは直感的に思った。

「わかった。僕もぜひ参加させてくれ。きっと恨みを晴らしてやりたいんだ」

「その意気だ! 今日から俺とお前はファミリーだ。貧民街の俺たちを虫ケラとしか見ていない貴族たちに、たっぷりと思い知らせてやろうぜ」

 固い握手を交わす二人。復讐。その二文字を胸に刻むと、全身に熱い血潮がみなぎるのを感じる。その日から再び、生きる意味を見いだしたケニーであった。

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