第53話

文字数 1,183文字

 ピーターは半ば夢見心地でデビッドの部屋を出ると他の生徒たちがいる辺りまで戻っていった。手にも顔にも若干血が付いていたが、ハロウィンのおかげでまわりには仮装用の血のりを付けた少年たちがウロウロしておりまるで目立たない。時間になったのでそのまま学校の方へと戻り、寮生たちの外出は何事もなく終わった。

 食堂での夕食が終わるとやがて就寝時間となり、自室に戻るとこっそり持ってきたデビッドの一部を例のコレクション用の小瓶に入れて愛おしそうに眺め、そうっとキスをしながらカーテンで隔てた隣で寝息を立てているルームメイトに気づかれぬよう、静かに自慰をした。



「ピーター! ピーター! 校長が呼んでるよ」

 翌朝、ピーターはルームメイトに揺り起こされた。

「なんだよ、今日は日曜じゃないか……」

「知らないけど、校長室まですぐ来るようにって」

 徐々に目が覚めてくると、昨日のことがまざまざと思い出され血の気が引いた。ああ、僕はロクに後片付けもせずにあの部屋を後にしたんだった。強烈な快感にしびれ、すっかり(ほう)けてしまって……ああどうしよう、すべてわかってしまったのだろうか……。ピーターはおののきながらもきっちり身支度を済ませ、校長室へと足早に向かった。

「ああピーター、こちらは警察の方だよ。じつは昨日、本校の生徒たちが町を訪問している時間に、あろうことか裏路地のアパートメントで殺人事件が起きたらしくてね。生徒代表(ヘッドボーイ)の君に話しを聞きたいとのことだ」

 なんのことはない、ピーターは「その時間現場付近にいたたくさんの生徒たちの代表」として不審者を見ていないか、なにかおかしな事はなかったかなど、形式上の一般的な質問をされただけ。心の内でそっと安堵のため息をもらすと、ヘッドボーイらしくハキハキと質問に答えるピーターであった。
 校長室から帰ると校内は朝刊にも出ている殺人事件の話でもちきりとなっており、ピーターもドキドキしながら新聞記事を読んで驚いた。それによると、デビッドの愛人はすべてが把握できないほど複数おり、中には金銭が絡む関係もあった。また家庭を持ち地位もある相手に対し「関係をバラす、さもなくば」といった半ば脅しまがいのこともしていたらしく、デビッドを憎み殺したいと思っていた人間は一人二人ではないとのこと。要するに謎だったデビッドの職業は、タチの悪い男娼とでもいったものであった。
 
 意外な事実を知ってショックを受けたピーターは部屋に戻り一人呆然としていたが、落ち着いて考えてみるとこれほど好都合なこともなかった。慎重に重ねられた逢瀬は誰にも気づかれていないはずだし、優秀な生徒が集まる寄宿学校の、しかもヘッドボーイであるピーターに疑いの目が向けられることはほぼないと言ってよい。(さらに背景として、DNA鑑定どころか指紋の採取すらおざなりにされがちだった時代の事件なのである)
 
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