第55話 トーマスの告発

文字数 993文字

まあしかし、人間なにもわるいことばっかりじゃない、いいことだって起こるわけで。オリん中でしょぼくれてたこのワタクシめに、今回のこの復讐劇に加担してくれちうありがてえお話が来ましてな、そもそもほれ、メスの扱いや縫合なんかは得意分野だしね、ほんの子ども時分から動物やら人間やらを切ったり貼ったりしてたんでソッチの方ならお任せあれってことで。正式なお医者先生じゃあそんな気味のわるいこと引き受けてもらえないし、あの変態野郎にやらしてみろってね。そりゃあもう二つ返事で! 喜んでさせていただきましたよ。ソレが本日お見せしてきた怪物どもなわけですよ。あ、気付いたかなあ、ダルマ男の両手両足はね、あれワイフにそのまんまくっつけたの。スパイダーウーマンね。なかなか面白かったでしょう、ねえ。けっこうな自信作なんでしてねえ、げへげへげへ。
 てなわけでこの、番狂わせで最後に残ったプリンス・チャーミング。コッチにもあたしがちょっくら改造をしてみますかねえ、ヒヒヒ……

「待って! 待って下さい!」

 観客席から叫ぶような男の声が届く。

「その男は……、そいつは私の手で、地獄へ……だってそいつは私に……」

「え、え、え? よく聞こえん。ちょっとそこの若いの、ちょっと舞台まで来てよ、いったいどうしたってぇの?」

 若い男は舞台の上に登ると促されるまま語りだした。

「私はロンバネス伯爵家の従者をしていた者です」

 ざわめく観客たち、青ざめるアルベルト。

「お、おい、トーマス、お前いったい何を……!」

 トーマスはアルベルトの方を一瞥するとおぞましいモノでも見るような目つきで苦々しく顔をしかめた。そして観客席の方に向き直ると、

「私はここにいる男、伯爵家の次男であるアルベルトに、長い間恥ずべき行為を強いられてきました」

 小屋の内部にどよめきが起こる。

「私には絶対に仕事が必要で断れないことを十分知った上で、だって病弱な郷里の母へ送金してることよく知ってましたしね、その上で、いくらご主人様だからって、あ、あんな、it's a sin、神にそむくような行為を……おお神よ、でも私はもう天国には行けないんだ……。し、しかし、私は今日ここで懺悔します。それしかないんだ。おお神よ、私は懺悔します。すべてを告白します」

 敬虔なクリスチャンであるトーマスは、自らの犯した恐ろしい罪におののきながらも、少しずつ話しだした。
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