第34話
文字数 992文字
お互い趣味は違えども風貌もよく似ており歳も四つ違いとそう遠くなく気の合う二人の兄弟は、意気投合してお気に入りの湖へと遠乗りに出かけることにした。うららかな六月の陽光のなか馬の背に乗り清々しい風を肌で感じながら森へと向かう田舎道。あたりは初夏の緑にあふれ爽やかでとても気持ちがいい。二人と従者はほどなくしてヴィンデクトの森の中に入り木々の間を縫うように奥へ奥へと進み、たっぷりとした水をたたえ美しく澄みわたる湖、レイク・ヴィンセンスに到着した。
「さあ着いたぞ。よし、僕はここで釣ってみよう」
しばらく辺りの風景をさまざまな角度から見回していたウィリアムの方は
「ここからの構図がよさそうだ。僕はここで描こう。トーマス」
「かしこまりました」
背の高い木々が生い茂りやや薄暗い森の中、まるで天からの啓示のように差し込む神秘的な木漏れ日。湖の上にはうっすらとした靄がゆっくりと移動しながらただよっている。
まったく幻想的でこの世のものとも思えぬ風景を楽しみながら兄弟は、従者のトーマスに準備をさせている間とりあえずワインとチーズで休憩した。
「ここはいつ来ても染みわたるような静けさがいいね。まったくもって癒やされるなあ」
「僕もここの風景が大好きさ。いい絵が描けそうな気がする」
「兄さんの絵はスペンサー家のサロンでも評判だったよ」
「スペンサー家? ああ、マダム・フランテの」
「そうそう、あのマダムは美術愛好家だものね」
「ふむ、どうやらそのようだが、実のところはどうだかね。わたくしは高尚な趣味を持っているのよ、なんて周りにひけらかすためだけに言ってるような気もするな」
「兄さんはあいかわらず辛辣だなあ! まあ言わんとしてることはわからないでもないけど」
「僕はマダムの高く盛られすぎたヘアスタイルとか、その上でさらに揺れている羽飾りとか、必要以上に開きすぎた胸もとなんかがどうも苦手なんだ」
「ああ、絵にしても美術品にしても、兄さんは素朴な味のある方が好みだものね」
「そう、もっと純朴で汚れのない、ピュアなものが好きなんだよ。大げさでなく控えめな」
「僕は派手やかなものもやはり美しいと思ってしまうけどね」
そんなたわいもない会話をしているところへトーマスがやってきて
「お待たせしました。お支度が整いましてございます」
「ありがとうトーマス。じゃあそろそろ本来の目的に取りかかるとするかな、ねえ兄さん」
「さあ着いたぞ。よし、僕はここで釣ってみよう」
しばらく辺りの風景をさまざまな角度から見回していたウィリアムの方は
「ここからの構図がよさそうだ。僕はここで描こう。トーマス」
「かしこまりました」
背の高い木々が生い茂りやや薄暗い森の中、まるで天からの啓示のように差し込む神秘的な木漏れ日。湖の上にはうっすらとした靄がゆっくりと移動しながらただよっている。
まったく幻想的でこの世のものとも思えぬ風景を楽しみながら兄弟は、従者のトーマスに準備をさせている間とりあえずワインとチーズで休憩した。
「ここはいつ来ても染みわたるような静けさがいいね。まったくもって癒やされるなあ」
「僕もここの風景が大好きさ。いい絵が描けそうな気がする」
「兄さんの絵はスペンサー家のサロンでも評判だったよ」
「スペンサー家? ああ、マダム・フランテの」
「そうそう、あのマダムは美術愛好家だものね」
「ふむ、どうやらそのようだが、実のところはどうだかね。わたくしは高尚な趣味を持っているのよ、なんて周りにひけらかすためだけに言ってるような気もするな」
「兄さんはあいかわらず辛辣だなあ! まあ言わんとしてることはわからないでもないけど」
「僕はマダムの高く盛られすぎたヘアスタイルとか、その上でさらに揺れている羽飾りとか、必要以上に開きすぎた胸もとなんかがどうも苦手なんだ」
「ああ、絵にしても美術品にしても、兄さんは素朴な味のある方が好みだものね」
「そう、もっと純朴で汚れのない、ピュアなものが好きなんだよ。大げさでなく控えめな」
「僕は派手やかなものもやはり美しいと思ってしまうけどね」
そんなたわいもない会話をしているところへトーマスがやってきて
「お待たせしました。お支度が整いましてございます」
「ありがとうトーマス。じゃあそろそろ本来の目的に取りかかるとするかな、ねえ兄さん」