第33話

文字数 718文字

「Come on ジョン! そら怠けずに全力で走って取っておいで」

 アルベルトが遠くに投げた木片を、懸命に走って追いかけるラブラドール・レトリーバーのジョン。

「よしよし、いい子だね。褒美をやろう」

 昼食後の皿に残っていた骨付きのローストチキンを放ってやるとうれしそうに飛びついた。

「今日は本当に気持ちのいい日だ。このところ雨続きだったから余計にうれしいね」

 兄のウィリアムはこの地方ではめずらしく強い陽射しに目を細めながら微笑した。広大な庭での昼食をこの兄弟は好んでいた。末娘のエルザは

「だって虫がいるじゃない!」

 と言って庭での食事を嫌がり出てこなかったのだが。

「まったくだよね兄さん! せっかくだから遠乗りにでもいかない? レイク・ヴィンセンスとかさ、どう?」

「そうだな、行ってみるか。僕はあの湖のほとりで絵を描きたいな。ウェスト家主催の絵画コンクールがもうすぐあるから」

「いいね、僕はやっぱり釣りだな。この間僕が釣り上げたマスは美味かったろう兄さん」

「ハハ、そうだったな。釣れたらまた料理番のミセス・ペンデルトンに頼んで焼いてもらうといいね」

「是非そうしよう。よし、たくさん釣り上げて屋敷じゅうの者にごちそうしてやろう」

「大きくでたな! せいぜいがんばってくれ、じゃ今晩は美味いマスを楽しみにしているよアルベルト」

「兄さん、任せといて! トーマス、釣りと兄さんの絵の道具の準備をしてくれ。チーズとワインもね。あとフレッドに言って馬の鞍を付けて、今日はそうだなあ、プレヴィスで。兄さんは?」

「僕はハイクレアに乗ろう。じゃあトーマス、」

「かしこまりました。すぐにご準備いたします」

 近くに控えていた従者のトーマスがうやうやしく答える。
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