第44話 「趣味の部屋」

文字数 831文字

「まあ、ずいぶん素敵なお宅ね! 突然来てしまって大丈夫かしら、親戚の方にもごあいさつしなくては」

 だが「親戚の家」というのは警戒を解くための嘘で、ここはじつはウィリアム自身が「趣味の部屋」として所有するアパートメントであった。自分好みのインテリアで整えさせた室内は品よくまとめられ落ち着きがあり、屋敷から離れて一人になれる癒やしの空間でもあった。

「ハハハ、大丈夫、今日は所要で出かけると言っていたからね、それに叔母さんとは仲良しだから、僕が友達を呼ぶくらい大歓迎さ」

「そうなの? だったらいいんだけど」

 ……そろそろ阿片シロップの効き目が薄れてくる頃かな、ことに及ぶ前にもう少し飲ませた方がいいだろう。ウィリアムはそう判断し、自然な様子でココアを入れる、シロップをさっきより少し多めに垂らして。

「リラックスリラックス。ほら温かいココアを入れたから、ソファにかけてゆっくりしてよ」

 キョロキョロと落ち着きのないフラニーにマグカップを渡しながら座るよう促すウィリアム。

「まあ、うれしい。いただくわ」

 ソファに並んで腰かけココアを飲んでいるうちにその効力が徐々に発揮され、フラニーはやわらかいソファに沈み込むように深くもたれていった。

「ああフラニー、僕は君に会えてとてもうれしいんだよ、今夜は最高だ」

「私もよアルベルト、なんて素敵な夜なのかしら」

 ウィリアムは隣に座るフラニーの肩をかるく抱き寄せると、トロンとした目つきでうっとりしている少女の唇にキスをしようと顎に手をかけた。すると一瞬ビクっとなり何か言いかけたようだが、構わず唇をかぶせた。しかしフラニーは軽くもがくようにして顔を離すと、

「あの、アルベルト、悪いんだけれど私もう帰らないと、」

 ……今さら、何をたわけたことを。ウィリアムは無言でソファの上にフラニーを組み敷くと、オフショルダーのワンピースの胸元をずり下げその初々しい桃のような胸に熱く湿った舌を這わせた。

「やめて、アルベルト、や、やめてちょうだい」
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