第17話

文字数 1,091文字

「まさかそんなことが……ああフラニー、フラニー、あんたをあの男と二人っきりなんかにするんじゃなかった! 調子がよくて人の良さそうな態度にすっかり騙されて……これはあたしの責任でもあるわ……」

 昨日別れてからの出来事を泣きながら話すフラニー。ソファに並んで座り、温かいコーヒーカップを両手で抱えるように持つフラニーの肩をしっかりと抱きながら、ベスは激しい後悔に身を震わせた。

 家で母親の世話をしながら内職をしているフラニーとは違い、家族と折り合いの悪かったベスは二年前、十六で学校を修了するとすぐ家を出て就職し女工として働きに出た。だから世の中のことも色々見たし聞いたしそれなりに経験もし、男がワルかどうかの見分けも十分にできるという自負があったのだ。ああ、それなのに。
 同い年とはいえしっかり者のベスはフラニーのことを妹のようにかわいがり守ってきたつもりだった。それがまんまと騙されて、結果フラニーをとんでもなく傷つけることになってしまうなんて!……でもいつまでもここでグジグジしてたって仕方がないわ。うまく解決しなくては。

「とにかく、ケニー兄さんへの言い訳をまず考えなくてはね。昨日はあたしがフラニーにどうしても聞いてほしいことがあって強引に部屋に誘って泊めた。うちにもフラニーの家にも電話がないから途中で連絡もできなかった。今日は日曜日であたしの工場もお休みなんだから丁度いいわ。そうしましょう」

「わかったわ……」

「まずシャワーを浴びていらっしゃいな、そしてこれに着替えて」

 ベスはタオルと自分のワンピースを渡した。おとなしく従いバスルームに入るフラニー。
 妹のように思っている純真なフラニーを傷つけたのは、自分だ。
 自責の念に苛まれたベスは力なくソファに腰を落とすと顔をおおいバスルームに聞こえないよう、こっそりと忍び泣いた。



「フラニー! 今までいったい何をしていたんだ! どれだけ心配したと思っているんだ!」

 いつもは温厚だが、あまりの心配につい声を荒げるケニー。兄と妹の間を遮るように中に入るベス。

「ケニー、ごめんなさい、あたしが無理やり引き止めたの、どうしても聞いてほしいことがあって」

「ベス、君もフラニーを誘い出して勝手なことしないでくれ。こんなこと二度とするんじゃないぞ」

「……はい、お兄ちゃん。ごめんなさい……」

 うなだれるフラニー。

「もういい、疲れた顔をしているね。すこし寝なさい。さあベスも帰りなさい」

「わかりました。ケニー、あたしからもごめんなさい」

 二人して子どものようにケニーから叱られ、とにもかくにも恐ろしい夜には終止符が打たれた。はずだったのだが。

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