第32話 犬男

文字数 834文字

さてもさてもお次に出てまいりますのは、ちょっと見てまいりますかね舞台袖にいるかな、(いったん袖に引っ込んだ後、再度出てきて)ああいたいた、うんうん、こりゃまたなかなかの美男子ですよ、当世流行りの伊達男とでも申しますかね、さあさご婦人方、これぞ眼福よおくご覧くださいませよ、お宅のとなりでだらしなく飲んだくれてる宿六とはちょいとワケが違うようですぜ。あ、旦那衆、怒っちゃいやん。だってもちろんただの美男子とはいかないんですからご安心くださいな。げへへ。しっかりとほれ、素敵な具合にね、改造済みなんですからね……げへへへへ。しっ! しーっ! 静粛に! いよいよでございますよ、こりゃまたびっくり犬男(いぬおとこ)のご登場ときたもんだ。さあさ皆さまとくとご覧あれ!

 じゃらり……じゃらり……じゃらり……一瞬静まり返った小屋の中に重く引きずるような鎖の音が響き渡る。そこに現れたのは犬か、いや人間か? 
 それはなんとも奇っ怪な半身半獣であった。手枷足枷でうなだれる男の頭の横っちょにもう一つ首がのっており、あろうことかそれは犬の首であった。剥製の処理でもされているのか犬らしく半開きにした口をしたソレは今にも吠えかかりそうに見えた。半裸の男の体を見れば、胸から腹にかけて犬の毛皮のようなものを着ている? いや縫いつけられているようだ。腰になにかブラさげているかと思いきや、犬のシッポがぶらんぶらんと腰から臀部のあたりをいったりきたりしている。

「ウィリアム兄さん……ジョン……」

 アルベルトは血走った目を見開き(ほう)けたようにつぶやいた。周りの観客たちは口笛を吹いたり足を踏み鳴らしたりしながら熱狂的に騒ぎ立てている。

「バウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウ」

 おかしなくらい平坦で機械的に繰り返されるジョンの鳴き声が頭の中でこだまする。

「アハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハ」

 そして兄ウィリアムの明るい笑い声が何重にも増幅され、エコーがかかった大音量で響いてくるのであった。
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