第16話

文字数 932文字

「う、うう………」

 気がついた時には、着衣が乱れたままソファの上に横たわっていた。全身、特に頭がガンガンと割れそうに痛む。

「こ、ここは……? 私はいったい、何を……」

 うっすら明けゆく早朝の光の中で意識が徐々にはっきりしてくるにつれ、昨晩の恐ろしい記憶が脳裏にまざまざとよみがえってくる。ソファに座り直し衣服を整えると両肩を抱え自分自身を守るようにぎゅっと抱きしめ、ふらふらと立ち上がり戸口へと向かった。すると

「起きたようだね」

 背後からアルベルトの声がして飛び上がりそうになった。

「あ、あなたは、なんということを……!」

 なにか言ってやりたいのだが、とにかく頭痛がひどい。両手で頭を抱えてじっとこらえていると

「ああ、昨日のはちょっと強すぎたかな。コーヒーでも入れようね」

 なんのこと?

「い、いりません」

「でもふわふわと漂うみたいに気持ち良かっただろう、効いてる間は」

 まさか、

「飲み物に……なにか入れたのね!?」

 どうりで、なぜだか変に高揚した気分でぼうっとして気がついたらこんなところまで付いてきてしまったんだわ。ああ、ああ、もう取り返しがつかない。
絶望的になったフラニーは、その場にぺたりと座りこみシクシクと泣き出した。アルベルトはそんなフラニーを見下ろしながら面倒くさそうにため息をつき

「なにも泣くことはないだろう。アレはなかなかの上等品だったんだ、おかげで楽しい夜になったじゃないか色々と」

 ねっとりいやらしい口調で言いながらフラニーのふるえる肩に手をかける。ぎょっとして弾けるように立ち上がったフラニーは

「私、帰ります!」

 急いで戸口に向かうとそのまま外に飛び出す。アルベルトが追ってくる気配はなかった。幸いなことにそこはよく知っている近所のストリートだったので、家までの道はすぐわかった。でも。こんな格好のまま帰るわけにはいかないわ。兄さんが見たらなんて言うか! そうだわベス、まずベスの家に行こう。

 痛む頭を抱えつつベスのアパートまでなんとか歩いていき呼び鈴を押す。寝ぼけまなこのベスだったがフラニーの打ちひしがれた姿をひと目見るや

「フラニー! 一体どうしたの、何があったの!?」

 倒れ込むように抱きついてきたフラニーをしっかり抱きとめ中に入れた。
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