その⑤

文字数 1,275文字

「おい、大丈夫?」

 伊集院と隆康には、最初から最適な濃度の酸素を与えている。けれども戦いの最中には目を覚まさなかった。

「全く、どうしようかな…」

 さっきは、沼田に殺されても動じないと言った。嘘ではない。だが、気を失った友人を放っておくのもちょっと嫌な気分なのだ。それにこの公園、大量の野生動物の死骸と沼田の死体もある。事情を知らない二人が起きたら、絶対にパニックになるだろう。

「ここにいましたか、犁祢!」

 愛倫が犁祢を発見してくれた。心と菜穂子も一緒だ。

「男は?」

 心に聞かれたので、犁祢は黙って死体を指差した。

「ワザワザ殺す必要ある? ちょっとあんた、どうかしてんじゃないの?」
「でも、あの男は沼田…舞太郎って言ってね。犯罪者だったよ」

 犁祢がそう説明すると、三人は文句を言わなくなった。

「でも、神通力者だったんだ。その神通力が厄介で、まあ、動物が死んでるのはそれが理由なんだけど…」

 十数分待って、やっと二人が目を覚ました。犁祢が事情を説明すると、

「そうか。それはご苦労さん」

 労いの言葉を贈られるのだが、同時に、

「俺が戦って、殺してみたかったぜ…」

 と悔しそうに言うのだ。特に隆康が。

「あのさ、僕に考えがあるんだけど…」

 ここで犁祢が提案する。伊集院が、何だ、と振ったので、

「これから先も、神通力を持つ犯罪者に遭遇するかもしれないじゃん? その時に負けました、では困ると思うんだよ。だから月のない夜は、ちょっとしたトレーニングをしない?」
「と言うと?」
「模擬戦って言うか、スパーリングって言うか…。お互いに殺しはしないけど、鍛錬するんだ。そうすれば今日みたいなことがあっても、個人個人で切り抜けられる」

 それを言うと、隆康が犁祢の肩に腕を回しながら、

「そうそう、それ! 俺もちょうどそうした方がいいって思ったんだ! 犁祢、俺が先に思いついたんだからな! 全く、パクるんじゃねえよ!」

 発言の内容はともかく、彼は賛成の態度。なので伊集院たちも、

「そうだな。ちょっとトレーニングはしておいた方がいい。今までは普通の人相手だったから余裕で勝てたし負けることもないと思ってたが、相手が神通力者じゃその考えだと危ない。神通力なしでも十分に相手ができるように鍛えておくか」

 賛成した。

 流石に今日は疲れていたので、帰宅することになった。だが明日からは、月が出てないからと言って休めない。

「でも、いいか。何かしないと面白くないからね」

 犁祢の発想はどこか、のほほんとしていた。とてもさっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない。しかも殺した相手のことは、数日後には忘れるのだ。
 明日になれば学校にも行くが、そこでも彼は平然としているのだ。学校で彼と出会う人物は、大人しそうな犁祢が人の命を平気で奪える人物とは思わないだろう。

 果たして犁祢……彼、いや彼らは、正義なのだろうか? それとも悪か? はたまた寝場打市には、正義も悪もいないのだろうか。
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