その③

文字数 2,062文字

 その爆発は、心と篠原も目撃していた。

「な、何だ…?」

 驚く篠原に対し心は動じない。もう準備万全。かくれんぼは終わりだ、篠原の前に出る。

「おお、よく出て来たな?」

 どうやら心は拳銃を新たに調達したらしく、両手にそれを持っている。そして篠原目掛けて発射。

「えい、えい!」
「それが通じるとでも?」

 篠原は銃口を向けられ、そして発砲されても動じない。超音波を使って弾丸を一発一発順番に破壊するだけだ。

「無駄なことを…」
「無駄じゃないわ……!」

 気づくのが、少し遅かった。篠原は目の前に心がいることに今、ハッとなった。

「距離を詰めて、どうする気だ…?」
「どうって、逃がさない……それだけ」

 また銃声。だがすぐに篠原の放つ超音波に粉砕される。

「でも、それでいい……。その神通力はどうやら、一度にたくさんのものを壊せない様子……。だから、あなたは弾丸を破壊しないといけない…!」

 それが心の狙いだった。実は、結構危険な賭けである。もし篠原の神通力が、思った仕様ではなかったら、心の体は今頃は粉々になっていただろう。だが、その賭けに勝った。そして近づくと、拳銃を篠原の真上に投げた。

「何をする…?」

 篠原の目線は拳銃に向けられていた。なので投げられて宙を舞った拳銃に、無意識の内に目が走った。多分彼は、拳銃に超音波を当てて破壊しようとしたのだ。その、ほんの一瞬が命取り。

「そこぉっ!」

 心の手が、篠原の左胸を貫いた。背中から飛び出した心の手には、鷲掴みにされた心臓が握られていた。そして声を出すこともなく、心が手を抜くと篠原の体はゆっくりと崩れ落ちた。

「ヤクザなんて心がないから、負けるのよ……」

 心臓と共にそう言い捨てる。


 二人は合流した。爆発を嗅ぎつけた消防や警察が来る前に虱潰しに園内を回って、もう谷野が残っていないことを確認すると、その場を去る。


 待ち合わせは、いつものビルの上。

「遅かったな、犁祢に心。まずはお疲れ様」

 他の四人は既に戻っている。聞く話によれば、伊集院たちが襲撃した事務所には、神通力者がおらず、隆康たちはそもそも事務所を探し出せなかったとのこと。

「俺だって探したんだけど? でも菜穂子が足を引っ張るからさぁ」

 まるで自分には責任がありませんよと言いたげな口調に菜穂子は反発する。

「何よ? あんただって真面目に探してなかったじゃない? 勝手に犯罪者を殺しに行っちゃって、あんたを探していたから東邦大会を探せなかったのよ?」
「怒るなよ、うるさいなあ」
「何ですって!」

 二人が喧嘩しそうになったので、伊集院が割って入って止める。

「とにかく! 今日神通力者を仕留められたのは犁祢たちだけか。まあそれはいい。のだが、一つ気になる話を聞いた」
「それは、何……?」

 伊集院と愛倫は、単に殺すことに熱を注いだわけではない。情報を聞き出すことにも専念した。すると、

「東邦大会には、裏のトップがいるらしい」
「何だそりゃ? 伊集院、お前漫画の読み過ぎなんじゃねえの?」

 隆康がつっこむ。すると伊集院は、

「かもしれない。それに一般構成員もその事実が噂であるとしか思っていないらしいからな、寧ろ俺もそうであって欲しいと思う…。だが、何か引っかかるのだ」

 彼の抱いた違和感。それは、

「どうして東邦大会が神通力者を抱えているのだ? その理由が知りたい。俺たちは自分たち以外の神通力者を基本的に知らない。だが、東邦大会はそうではない。大勢の神通力者を構成員に入れている」

 その謎に、犁祢たちは首を傾げた。

「そう言えば、僕らも何で神通力があるのかを深く考えたことはなかったね。僕は、気がついたらあった……んだけど…」

 そして、ここにいる六人がみんなそうだ。自覚するまではわからないのだが、自分で気がつくと使えるようになっているのだ。そして自分たち以外の神通力者は見たことがなかったので、神通力の発現は希少な現象であるとも思っている。

「その謎を解き明かす答えを、裏のトップが握っている。としたら、知りたくはないか?」
「ですね。私もそこは疑問に感じました。もう私たちが何者であるかの議論は結構ですが、東邦大会が本当はどんな組織なのか…それは疑問です。何故に神通力者がいるのでしょう? だって大会は普通の人から見れば、ありふれた暴力団なわけで…」

 愛倫の発言を受けて犁祢は呟いた。

「まるで、誰かが作った私設部隊みたいだね…。神通力者で固めたグループ。それがきっと、作った人物の手から放れて普通の人も取り込んで勝手に大きくなった。違うかな?」
「あり得る。そしてその答えは、多分裏のトップしか知らない…」

 ここで、六人に新しい目標が追加された。

「東邦大会…その正体を暴こう! ただ潰すだけじゃ、意味がない。何故神通力者をこれだけ抱えているのか。その謎も!」
「おう!」
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