その①
文字数 2,430文字
ついにあと一週間を切った。文化部はより忙しさを増す。出店を構える運動部も、それなりに用意を済ませる。
「ここで諸君、一度振り返ろう!」
美優志は総仕上げに入ろうとしていた。思えばこの一年、苦痛だらけだった。先輩たちのせいでゴールデンコックローチ賞を受賞することから始まり、写真部は不真面目だ、というレッテルも貼られ、顧問の先生にも見放された。
しかし、その屈辱をバネにした。そして縁を仲間に入れ、彼の発案でまともな活動ができた。その集大成を文化祭で多くの人に見せることになるのだ。
「ここまで来て、また受賞…という流れは流石にないと俺は確信している! 今や写真部が真面目な活動に勤しんでいることを知らない生徒はいない! これは汚名返上のチャンス! 神が与えてくれた、名誉挽回の機会!」
熱弁する美優志だが、それは雲雀しか聞いていない。犁祢をはじめとする部員は、最終作業で忙しいのだ。耳を傾けている暇があったら、手を動かす。
「あ、また誤字があった…!」
犁祢はそれを発見すると、修正液で白く塗りつぶして、渇いた後に正しい文字を記入する。菜穂子の担当した模造紙は何でか、誤字が多い。
「こっちの写真部はどう?」
貼り付ける写真も、ベストショットを選定する。心はパソコンとにらめっこし、その会心の出来を選んだ。
「これがいいわ」
菜穂子が決めると、それをプリントアウト。そして猟治が模造紙に貼り付ける。
「よし、これで完成だ。あとどれぐらい部活と委員会が残ってる、縁君?」
「もうそんなに多くはなさそうだね。これなら今日中に終わらせられるよ」
やる気のなかった写真部だったが、今は活気に満ち溢れている。
「縁君!」
突然美優志は大声で縁のことを名指しした。
「これも君のおかげだ! 俺はどんな結果になっても、全て受け入れるつもりだよ!」
「美優志君…。それじゃあ、廃部になってもいいのかい? 成功させよう! そうしてゴールデンコックローチ賞を回避してから、改めて喜ぶんだ! その方がいいに決まっているよ」
「それもそうだな…」
美優志は、喜ぶのを取っておくことにした。
「また僕から提案があるんだけど…」
縁が挙手したので、美優志は発言を許可した。
「展示物だけじゃ、詰まらないって意見が出るかもしれない。だから、写真撮影を体験してもらうのはどうだろう?」
「と言うと?」
縁は説明した。今の時代、インスタントカメラがなくても、撮影した写真をすぐに現物にできる。だったら何か衣装とか用意して、着替えてもらって撮影して、出来上がった写真を思い出として渡す。
「どうかな、美優志君も、みんなも?」
「ナイスなアイディアだわ!」
菜穂子が真っ先に食いついた。
「俺も賛成だ。つっても俺が用意できるのは女装用具だけだけどね」
猟治も頷く。
「受験を考えてる中学生や他校の生徒に、うちの学校の制服に着替えてもらうだけでも違うかもね」
猟治に続き犁祢も、だ。そして雲雀も心も、反対意見を出さなかった。
「なら決まりだな! その案で行こう!」
採用されるとすぐに、その準備を始める部員たち。プリンターの調子を調べてインクの買い出しに雲雀が出かける。美優志はパソコンを、文化祭の最中にフリーズしたりしないように最新版にアップデートした。
「ふああ~」
縁のあくびを見て犁祢は、
「ビックリした…」
「そんなに驚くことかい? 僕だって眠い時はあるさ」
「夜更かししてるの?」
「ちょっとね…」
美樹の一件があって以降、縁は夜な夜な家を出て自主パトロールをしている。最初は一回だけでいいと思ったのだが、毎日起きる犯罪のせいで、次の日もそしてその次の日も行うこととなった。そして何度も犯罪者を捕まえて、警察に突き出したのだ。普通の犯罪者なら、神通力を使わなくても縁一人で十分に相手が可能だった。
「まあ物騒な町だからね…。焼け石に水だろうけど、ジッとしてられない性分で」
それを聞いた犁祢は、ちょっと不機嫌な気分になった。
(まさか縁君が、獲物を減らしているのか…?)
だが、すぐにその発想を否定する。
(まさかね。縁君が相手をできるのは、普通の犯罪者だけだろう。でも危ない時は本当にあると思うし…)
犁祢は、縁が神通力者であることを知らない。だから、
「そうなんだ。でも気をつけてよ? 犯罪者って普通じゃないから」
と、警告した。
「心配してくれるのかい? それはありがとう。でも問題ないさ!」
自信満々の縁の発言を受け、犁祢は、ならよかった、と言った。
「パソコンの方は問題なさそうだな! プリンターのインクも今、雲雀が十分に補充してきてくれた! 明日は各自、衣装になりそうなのを持ってこい!」
そしてこの日は解散。
写真部は次の日も慌ただしい。衣装に使えそうな物がほとんどなかったのだ。
「部費で何とかならない?」
心が言うが、美優志の返事は暗い。当然だ。演劇部ではないので、そんなところに貴重な部費はかけられない。
「仕方ない…。文化祭は土曜日曜、今はもう水曜日…。木曜には準備を完璧にしておきたいから、今日がデッドラインだ。でも今日は今日で七時間目まで授業があるしな…」
「もうこの際、少なめの衣装で誤魔化そう。幸いにも雲雀や心や菜穂子がいるんだし、綺麗な姉さんを演じさせれば…っても、俺が女装した方が可愛いか」
「何その言い方!」
だが猟治の言う通り、衣装がないなら誤魔化すしかないのだ。幸いにもその手段は、まだ考えようがある。
「じゃあ、とりあえず……。模造紙の最終確認だけしておこう。今ならまだ間違いを訂正できるからな…」
そしてこの日は、確認で終わった。劇を行うわけではないので、水曜も木曜も、特に進展はない。
「ここで諸君、一度振り返ろう!」
美優志は総仕上げに入ろうとしていた。思えばこの一年、苦痛だらけだった。先輩たちのせいでゴールデンコックローチ賞を受賞することから始まり、写真部は不真面目だ、というレッテルも貼られ、顧問の先生にも見放された。
しかし、その屈辱をバネにした。そして縁を仲間に入れ、彼の発案でまともな活動ができた。その集大成を文化祭で多くの人に見せることになるのだ。
「ここまで来て、また受賞…という流れは流石にないと俺は確信している! 今や写真部が真面目な活動に勤しんでいることを知らない生徒はいない! これは汚名返上のチャンス! 神が与えてくれた、名誉挽回の機会!」
熱弁する美優志だが、それは雲雀しか聞いていない。犁祢をはじめとする部員は、最終作業で忙しいのだ。耳を傾けている暇があったら、手を動かす。
「あ、また誤字があった…!」
犁祢はそれを発見すると、修正液で白く塗りつぶして、渇いた後に正しい文字を記入する。菜穂子の担当した模造紙は何でか、誤字が多い。
「こっちの写真部はどう?」
貼り付ける写真も、ベストショットを選定する。心はパソコンとにらめっこし、その会心の出来を選んだ。
「これがいいわ」
菜穂子が決めると、それをプリントアウト。そして猟治が模造紙に貼り付ける。
「よし、これで完成だ。あとどれぐらい部活と委員会が残ってる、縁君?」
「もうそんなに多くはなさそうだね。これなら今日中に終わらせられるよ」
やる気のなかった写真部だったが、今は活気に満ち溢れている。
「縁君!」
突然美優志は大声で縁のことを名指しした。
「これも君のおかげだ! 俺はどんな結果になっても、全て受け入れるつもりだよ!」
「美優志君…。それじゃあ、廃部になってもいいのかい? 成功させよう! そうしてゴールデンコックローチ賞を回避してから、改めて喜ぶんだ! その方がいいに決まっているよ」
「それもそうだな…」
美優志は、喜ぶのを取っておくことにした。
「また僕から提案があるんだけど…」
縁が挙手したので、美優志は発言を許可した。
「展示物だけじゃ、詰まらないって意見が出るかもしれない。だから、写真撮影を体験してもらうのはどうだろう?」
「と言うと?」
縁は説明した。今の時代、インスタントカメラがなくても、撮影した写真をすぐに現物にできる。だったら何か衣装とか用意して、着替えてもらって撮影して、出来上がった写真を思い出として渡す。
「どうかな、美優志君も、みんなも?」
「ナイスなアイディアだわ!」
菜穂子が真っ先に食いついた。
「俺も賛成だ。つっても俺が用意できるのは女装用具だけだけどね」
猟治も頷く。
「受験を考えてる中学生や他校の生徒に、うちの学校の制服に着替えてもらうだけでも違うかもね」
猟治に続き犁祢も、だ。そして雲雀も心も、反対意見を出さなかった。
「なら決まりだな! その案で行こう!」
採用されるとすぐに、その準備を始める部員たち。プリンターの調子を調べてインクの買い出しに雲雀が出かける。美優志はパソコンを、文化祭の最中にフリーズしたりしないように最新版にアップデートした。
「ふああ~」
縁のあくびを見て犁祢は、
「ビックリした…」
「そんなに驚くことかい? 僕だって眠い時はあるさ」
「夜更かししてるの?」
「ちょっとね…」
美樹の一件があって以降、縁は夜な夜な家を出て自主パトロールをしている。最初は一回だけでいいと思ったのだが、毎日起きる犯罪のせいで、次の日もそしてその次の日も行うこととなった。そして何度も犯罪者を捕まえて、警察に突き出したのだ。普通の犯罪者なら、神通力を使わなくても縁一人で十分に相手が可能だった。
「まあ物騒な町だからね…。焼け石に水だろうけど、ジッとしてられない性分で」
それを聞いた犁祢は、ちょっと不機嫌な気分になった。
(まさか縁君が、獲物を減らしているのか…?)
だが、すぐにその発想を否定する。
(まさかね。縁君が相手をできるのは、普通の犯罪者だけだろう。でも危ない時は本当にあると思うし…)
犁祢は、縁が神通力者であることを知らない。だから、
「そうなんだ。でも気をつけてよ? 犯罪者って普通じゃないから」
と、警告した。
「心配してくれるのかい? それはありがとう。でも問題ないさ!」
自信満々の縁の発言を受け、犁祢は、ならよかった、と言った。
「パソコンの方は問題なさそうだな! プリンターのインクも今、雲雀が十分に補充してきてくれた! 明日は各自、衣装になりそうなのを持ってこい!」
そしてこの日は解散。
写真部は次の日も慌ただしい。衣装に使えそうな物がほとんどなかったのだ。
「部費で何とかならない?」
心が言うが、美優志の返事は暗い。当然だ。演劇部ではないので、そんなところに貴重な部費はかけられない。
「仕方ない…。文化祭は土曜日曜、今はもう水曜日…。木曜には準備を完璧にしておきたいから、今日がデッドラインだ。でも今日は今日で七時間目まで授業があるしな…」
「もうこの際、少なめの衣装で誤魔化そう。幸いにも雲雀や心や菜穂子がいるんだし、綺麗な姉さんを演じさせれば…っても、俺が女装した方が可愛いか」
「何その言い方!」
だが猟治の言う通り、衣装がないなら誤魔化すしかないのだ。幸いにもその手段は、まだ考えようがある。
「じゃあ、とりあえず……。模造紙の最終確認だけしておこう。今ならまだ間違いを訂正できるからな…」
そしてこの日は、確認で終わった。劇を行うわけではないので、水曜も木曜も、特に進展はない。