その③
文字数 1,504文字
次の日、美優志と犁祢は縁を捕まえた。
「縁君、写真部にはいつでも顔を出していいんだよ? 何も文化祭が終わったからって、もう出ないなんてことは言わないでくれ!」
縁を失ったのは、大きかった。昨日の活動は散々で、菜穂子は縁が来ないと知るとすぐに帰ってしまい、心もあまりやる気がなさそうなのだ。猟治はゲーム機を持って来て遊んでいる。注意すると、
「文化祭直後ぐらい、いいじゃないか」
と開き直るのだ。美優志は、縁がいないと彼らをやる気にさせられないと思い、交渉をしようとしているのだ。
「美優志君、僕も行きたい気持ちはあるんだ」
「なら!」
「でも、ごめん。今はできないんだ。実はね、東邦大会って暴力団に追われていて…」
「う、噂は本当だったの?」
美優志よりも犁祢が、声を出して驚いた。
「今は待って欲しい。でも事が済んだら、必ず写真部に顔を出すよ。だからもう少しでいいんだ、僕に時間をくれないか?」
頭を下げてそう言われたら、美優志も縁の願いを聞き入れずにはいられない。
「わかったよ。でも、気をつけてくれ……」
そうとしか言えないのだ。隣にいた犁祢は、
「ま、まさか……」
まだ衝撃にやられていた。その動揺っぷりは美優志にも伝わり、
「お、おい…? 大丈夫か犁祢?」
と聞かれても、答えられないのだ。
「では、僕はこれで失礼するよ…」
縁は挨拶をすると、すぐに下校した。
「犁祢? おーい、聞こえてるか?」
写真部の部室に戻って来ても、まだ犁祢の目玉は動揺して泳いでいる。
「犁祢? 今日は具合が悪いのか? なら早退していいぞ…?」
ここまで来ると、その動揺に対して恐怖心が湧く。だから美優志は気を利かせ、犁祢を早めに帰らせた。
「マズいことになった…」
いつものビルの屋上で、犁祢が切り出す。
「何だ、一体?」
伊集院が相槌を打つ。犁祢の雰囲気からは、そんなに切羽詰まったようには見えない。
「縁君ってわかるでしょ?」
「ああ。俺の次にイケメンなヤツだろ? でも俺の方が上だから」
「彼がね、東邦大会に追われているんだって…」
その言葉だけを聞くと、隆康は不思議に思い、
「何でそれを犁祢が心配するんだ? どうせウザい正義感の自業自得だろ? 放っておけばいいじゃないか」
と言う。しかし犁祢には、それが他人事ではない理由があった。
「僕のせいなんだよ…」
正直に白状する。
彼の友人である錬耶に暴行を働いた、佐藤と鈴木。その二人が東邦大会の構成員であることを、犁祢は殺した後に知った。
当初、犯罪者なら仕方ないし、報復されるかもしれないがどうせ自分たちにはたどり着けないと高を括っていた。しかし大会はどういうわけか、縁にたどり着いてしまったのだ。
その理由は、全くわからない。
「でも、僕のせいで友達が暴力団に狙われているなんて、いい心地しないよ。寧ろ最悪だ。自分で自分が許せないんだ」
「じゃあ、どうしたいのよ?」
菜穂子が聞くと、
「しばらく、僕は自粛する」
犁祢は宣言した。
「それは、本当ですか?」
愛倫は信じられずに、深く聞いた。
「実際には、君らと関わらないようにするよ。僕のせいで縁君が暴力団に疑われたって言うなら、僕は彼の身の潔白を証明する! それは東邦大会を潰す戦いになるだろう。みんなを巻き込むわけにはいかないんだ。だから僕一人で、東邦大会と戦うよ」
そう言うと犁祢は、一人で他のビルにジャンプして飛んだ。
「待ってよ……!」
心の声は、空しく響いた。
「縁君、写真部にはいつでも顔を出していいんだよ? 何も文化祭が終わったからって、もう出ないなんてことは言わないでくれ!」
縁を失ったのは、大きかった。昨日の活動は散々で、菜穂子は縁が来ないと知るとすぐに帰ってしまい、心もあまりやる気がなさそうなのだ。猟治はゲーム機を持って来て遊んでいる。注意すると、
「文化祭直後ぐらい、いいじゃないか」
と開き直るのだ。美優志は、縁がいないと彼らをやる気にさせられないと思い、交渉をしようとしているのだ。
「美優志君、僕も行きたい気持ちはあるんだ」
「なら!」
「でも、ごめん。今はできないんだ。実はね、東邦大会って暴力団に追われていて…」
「う、噂は本当だったの?」
美優志よりも犁祢が、声を出して驚いた。
「今は待って欲しい。でも事が済んだら、必ず写真部に顔を出すよ。だからもう少しでいいんだ、僕に時間をくれないか?」
頭を下げてそう言われたら、美優志も縁の願いを聞き入れずにはいられない。
「わかったよ。でも、気をつけてくれ……」
そうとしか言えないのだ。隣にいた犁祢は、
「ま、まさか……」
まだ衝撃にやられていた。その動揺っぷりは美優志にも伝わり、
「お、おい…? 大丈夫か犁祢?」
と聞かれても、答えられないのだ。
「では、僕はこれで失礼するよ…」
縁は挨拶をすると、すぐに下校した。
「犁祢? おーい、聞こえてるか?」
写真部の部室に戻って来ても、まだ犁祢の目玉は動揺して泳いでいる。
「犁祢? 今日は具合が悪いのか? なら早退していいぞ…?」
ここまで来ると、その動揺に対して恐怖心が湧く。だから美優志は気を利かせ、犁祢を早めに帰らせた。
「マズいことになった…」
いつものビルの屋上で、犁祢が切り出す。
「何だ、一体?」
伊集院が相槌を打つ。犁祢の雰囲気からは、そんなに切羽詰まったようには見えない。
「縁君ってわかるでしょ?」
「ああ。俺の次にイケメンなヤツだろ? でも俺の方が上だから」
「彼がね、東邦大会に追われているんだって…」
その言葉だけを聞くと、隆康は不思議に思い、
「何でそれを犁祢が心配するんだ? どうせウザい正義感の自業自得だろ? 放っておけばいいじゃないか」
と言う。しかし犁祢には、それが他人事ではない理由があった。
「僕のせいなんだよ…」
正直に白状する。
彼の友人である錬耶に暴行を働いた、佐藤と鈴木。その二人が東邦大会の構成員であることを、犁祢は殺した後に知った。
当初、犯罪者なら仕方ないし、報復されるかもしれないがどうせ自分たちにはたどり着けないと高を括っていた。しかし大会はどういうわけか、縁にたどり着いてしまったのだ。
その理由は、全くわからない。
「でも、僕のせいで友達が暴力団に狙われているなんて、いい心地しないよ。寧ろ最悪だ。自分で自分が許せないんだ」
「じゃあ、どうしたいのよ?」
菜穂子が聞くと、
「しばらく、僕は自粛する」
犁祢は宣言した。
「それは、本当ですか?」
愛倫は信じられずに、深く聞いた。
「実際には、君らと関わらないようにするよ。僕のせいで縁君が暴力団に疑われたって言うなら、僕は彼の身の潔白を証明する! それは東邦大会を潰す戦いになるだろう。みんなを巻き込むわけにはいかないんだ。だから僕一人で、東邦大会と戦うよ」
そう言うと犁祢は、一人で他のビルにジャンプして飛んだ。
「待ってよ……!」
心の声は、空しく響いた。