その②
文字数 3,203文字
鍍金は、液化することのできる橘高に苦戦していた。
「この! ちょこまかと…!」
橘高は、鍍金の服に自分の体をしみ込ませた。そして一気に距離を詰める。すると、上半身だけ鍍金の服から生えているようになった。
「行くぜ、小僧!」
この距離で橘高は、鍍金の顔を殴り始める。
「ほれほれ! ほれ!」
鍍金はその拳を防ぐので精一杯だ。
「どうしたんだ、もう力いっぱいなのかあ?」
橘高の攻撃は、ヒートアップする。拳はより速く、重くなる。
「く、くそ……っ!」
鍍金も反撃をする。橘高の上半身が生えている部分を切り離そうとするが、すぐに液化するので全くうまくいかない。逆にガードが手薄になり、顔にパンチをもらった。
「がはっ!」
「雑魚いな、お前? こんな雑魚相手に苦戦する仲間がいるとは思えないぜ!」
余裕をぶっこいている橘高。しかし、異変に気がつく。
「おい小僧? どうした?」
鍍金の表情が、急に変貌する。さっきまでの顔はどこへやら、まるで鬼のようだ。
「やりたい放題やらせておけば、貴様ぁ! これからその顔をぐちゃぐちゃにしてやる! 覚悟しろ!」
堪忍袋の緒が切れたのだ。いつもの丁寧口調も消え去り、怒りだけが彼を支配する。
鍍金は自分の体に電流を流した。その激しい電気が、一撃で橘高の体を弾いた。
「何だ今のは…?」
突然の激昂に、橘高は戸惑いを隠せない。
「貴様、もう許さない! ここで潰す!」
そして鍍金が、両手に電気を走らせ橘高に向かって駆ける。
「馬鹿め! そんなことに何の意味が!」
液化して受けるまでもない。橘高は、鍍金の攻撃を避けた。だがその瞬間、鍍金の手から雷が走る。
「べべべ…!」
体の液化が、間に合わずに橘高はその雷に撃たれた。すさまじい衝撃が全身に走る。
「だ、だが! まだやれる! 逆にこの小僧を俺は殺せる…!」
それでも希望を捨てない橘高。相手はキレて冷静さを失っているのだ。だとしたら自分が冷静になって、対処すればいい。そうすれば相手の方から墓穴を掘ってくれるのだ。
しかしその常識が通じる相手でないことを、橘高は思い知ることとなる。
「うりゃああああおおおお! くらえ!」
なんと鍍金は、ところかまわず放電し始めたのである。地面に生えている草が、近くの木が、電流に撃ち抜かれてそして黒焦げになる。
「ぐえっ!」
今、橘高の右耳を稲妻が撃ち抜いた。液化が間に合わなかったので、激しい痛みに襲われる。
「ううぐえええ…。耳はあるか…?」
触ってその存在を確かめる。千切れてはいないが、火傷しているらしく、ヒリヒリするのだ。
「そこかぁ!」
鍍金の激しい攻撃は、留まることを知らない。両手を合わせることで電気を集結させ、そこからさらに電量を増大させる。まるで鍍金が、特大のスタンガンのようだ。
「な? おいちょっと待て!」
流石の橘高も、その一撃をくらったらタダでは済まされないことを悟る。
「黙れ!」
聞く耳を持たない鍍金。
(いや、待て! まだ逃げられるじゃないか!)
今なら、鍍金は自分の電気の増大に夢中である。だから多分、こちらが離れても動こうとしないはず。
(あの大きな電磁砲…とでも言おうか。その砲口を、コイツの仲間に向けさせれば!)
橘高は思いついたのだ。この状況を利用する術を。少し動いて誘導してやればよいのだ。
(よし、いく……)
足を動かそうとした、その時だ。地面の下から稲妻が飛んできた。完全な不意打ち、橘高が避けられるはずがない。
「アゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!」
既に鍍金の電気は足から、地面の水分を通って橘高の足元まで通じていたのだ。そして逃がさないために今、感電させている。
「標準、確認! お前の命はここまでだ!」
電気を流され痺れている橘高は、自分の神通力に集中できない。そもそもあの大きな電磁砲は、液化しても逃れられる気がしない。やはりここから離れるしかないのだが、痺れた足が言うことを聞かない。
「や、やめろおおおおお!」
橘高の叫び声と、鍍金の電気を発射する音は同時だった。橘高は、右胸を堂々と撃ち抜かれたのである。
「…………………!」
怒り狂っていた鍍金だが、それでも心に善良心が少しだけ残っていたらしい。そのおかげか、橘高は死ぬことはなかった。けれども、もう自力では立ち上がれないことに変わりはない。
同じ頃、菫の方の戦いも終結しようとしていた。
(こんなガキんちょ、ちょろいわよ! ちょっと神通力を使えばすぐにフラフラ! 立っていられなくなるわ!)
牧野は、人の感情が如何に重要であるかを熟知していた。わずかなミスで、動揺してしまう人もいる。どれだけ強靭な精神力を持っていたとしても、感情がプラスに働かなければ意味がないのだ。そして彼女は、この神通力を使うことで、この組織の中でもそれなりの地位を築くことに成功したのである。
「ホラ! よそ見している暇がある?」
菫の顔にビンタをする。それは重い一撃ではない。むしろこの場にそぐわないぐらい軽めなビンタだ。
でも、それでいい。感情を揺さぶられ、自信を失いつつある相手は、弱い攻撃でも十分すぎる効果がある。マイナス思考が勝手に痛みを増幅させるのだ。
「うう……」
現に菫は頬を手で押さえた。赤く腫れあがってもいないのに、である。神通力が効いている証だ。
(ま、相手を自殺させるぐらい真っ暗にできるけど…。この子にはそこまでする必要はないわね……。だってもう、終わりじゃないのよ?)
牧野は勝利を確信する。何故ならさっきの一撃で菫は、地面に倒れこんでしまったのだ。
「ねえどうしたの? もう終わり? 詰まらない子ね…」
勝利を確実なものとするために、捨て台詞でさらに追い込む。菫は反論できない。
(勝ったわ。私からすれば楽勝よ………ん?)
立ち去ろうとしたその時、牧野の足を何かが掴んだ。
「そ、そんな馬鹿なことが!」
菫だ。地べたを這いつくばって牧野の足元まで動き、そして足首を捉えたのである。しかし、牧野の神通力をくらった彼女にはもうそんなに動ける精神力がなかったはずだ。何故動くことができたのだろうか?
「こ、こんなところで負けるなんて……恥ずかしくて縁君に顔向けできないわ! 意地でもあんたを倒して、私はぁ、勝つ!」
牧野は倒れた。菫が手に力を加えて、そして思いっ切り引っ張ったからバランスを崩されて。それに加えて、あり得ない光景を目の当たりにし、腰が抜けたから。
「あ、あ、あ、あり得ないわ! もうあんたには、まともな思考をする感情が残っていないはず! なのにどうして動けるのよ?」
「簡単よそんなこと。縁君のためなら、頑張れる。自分の限界を突き破ってでも、必ず期待に応えてみせる! そう考えると勇気が湧いてくる!」
そして、その勇気が菫のことを立たせた。形勢逆転。さっきまで立っていた牧野は今、尻餅をついている。倒れていたはずの菫が、牧野を見下すように立っている。
「よくも私の心を覗いたわね? もう容赦しないわよ……。見てなさい!」
菫は牧野の足を掴むと、勢いよく持ち上げる。
「ま、待って! 心を覗くのは私の神通力じゃないわ! 感情を揺さぶるだけよ? 勝手に被害を付け足さないで!」
そんな命乞いが聞き入れられるわけもなく、菫は、
「関係ないわ、どっちみち!」
牧野と共に投げ捨てる。投げられた牧野は、橋げたに叩きつけられた。
「ふにゃ~~~…」
すごい一撃だったので、もう立ち上がれないだろう。神通力者でなければ即死するレベルだ。
「この! ちょこまかと…!」
橘高は、鍍金の服に自分の体をしみ込ませた。そして一気に距離を詰める。すると、上半身だけ鍍金の服から生えているようになった。
「行くぜ、小僧!」
この距離で橘高は、鍍金の顔を殴り始める。
「ほれほれ! ほれ!」
鍍金はその拳を防ぐので精一杯だ。
「どうしたんだ、もう力いっぱいなのかあ?」
橘高の攻撃は、ヒートアップする。拳はより速く、重くなる。
「く、くそ……っ!」
鍍金も反撃をする。橘高の上半身が生えている部分を切り離そうとするが、すぐに液化するので全くうまくいかない。逆にガードが手薄になり、顔にパンチをもらった。
「がはっ!」
「雑魚いな、お前? こんな雑魚相手に苦戦する仲間がいるとは思えないぜ!」
余裕をぶっこいている橘高。しかし、異変に気がつく。
「おい小僧? どうした?」
鍍金の表情が、急に変貌する。さっきまでの顔はどこへやら、まるで鬼のようだ。
「やりたい放題やらせておけば、貴様ぁ! これからその顔をぐちゃぐちゃにしてやる! 覚悟しろ!」
堪忍袋の緒が切れたのだ。いつもの丁寧口調も消え去り、怒りだけが彼を支配する。
鍍金は自分の体に電流を流した。その激しい電気が、一撃で橘高の体を弾いた。
「何だ今のは…?」
突然の激昂に、橘高は戸惑いを隠せない。
「貴様、もう許さない! ここで潰す!」
そして鍍金が、両手に電気を走らせ橘高に向かって駆ける。
「馬鹿め! そんなことに何の意味が!」
液化して受けるまでもない。橘高は、鍍金の攻撃を避けた。だがその瞬間、鍍金の手から雷が走る。
「べべべ…!」
体の液化が、間に合わずに橘高はその雷に撃たれた。すさまじい衝撃が全身に走る。
「だ、だが! まだやれる! 逆にこの小僧を俺は殺せる…!」
それでも希望を捨てない橘高。相手はキレて冷静さを失っているのだ。だとしたら自分が冷静になって、対処すればいい。そうすれば相手の方から墓穴を掘ってくれるのだ。
しかしその常識が通じる相手でないことを、橘高は思い知ることとなる。
「うりゃああああおおおお! くらえ!」
なんと鍍金は、ところかまわず放電し始めたのである。地面に生えている草が、近くの木が、電流に撃ち抜かれてそして黒焦げになる。
「ぐえっ!」
今、橘高の右耳を稲妻が撃ち抜いた。液化が間に合わなかったので、激しい痛みに襲われる。
「ううぐえええ…。耳はあるか…?」
触ってその存在を確かめる。千切れてはいないが、火傷しているらしく、ヒリヒリするのだ。
「そこかぁ!」
鍍金の激しい攻撃は、留まることを知らない。両手を合わせることで電気を集結させ、そこからさらに電量を増大させる。まるで鍍金が、特大のスタンガンのようだ。
「な? おいちょっと待て!」
流石の橘高も、その一撃をくらったらタダでは済まされないことを悟る。
「黙れ!」
聞く耳を持たない鍍金。
(いや、待て! まだ逃げられるじゃないか!)
今なら、鍍金は自分の電気の増大に夢中である。だから多分、こちらが離れても動こうとしないはず。
(あの大きな電磁砲…とでも言おうか。その砲口を、コイツの仲間に向けさせれば!)
橘高は思いついたのだ。この状況を利用する術を。少し動いて誘導してやればよいのだ。
(よし、いく……)
足を動かそうとした、その時だ。地面の下から稲妻が飛んできた。完全な不意打ち、橘高が避けられるはずがない。
「アゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!」
既に鍍金の電気は足から、地面の水分を通って橘高の足元まで通じていたのだ。そして逃がさないために今、感電させている。
「標準、確認! お前の命はここまでだ!」
電気を流され痺れている橘高は、自分の神通力に集中できない。そもそもあの大きな電磁砲は、液化しても逃れられる気がしない。やはりここから離れるしかないのだが、痺れた足が言うことを聞かない。
「や、やめろおおおおお!」
橘高の叫び声と、鍍金の電気を発射する音は同時だった。橘高は、右胸を堂々と撃ち抜かれたのである。
「…………………!」
怒り狂っていた鍍金だが、それでも心に善良心が少しだけ残っていたらしい。そのおかげか、橘高は死ぬことはなかった。けれども、もう自力では立ち上がれないことに変わりはない。
同じ頃、菫の方の戦いも終結しようとしていた。
(こんなガキんちょ、ちょろいわよ! ちょっと神通力を使えばすぐにフラフラ! 立っていられなくなるわ!)
牧野は、人の感情が如何に重要であるかを熟知していた。わずかなミスで、動揺してしまう人もいる。どれだけ強靭な精神力を持っていたとしても、感情がプラスに働かなければ意味がないのだ。そして彼女は、この神通力を使うことで、この組織の中でもそれなりの地位を築くことに成功したのである。
「ホラ! よそ見している暇がある?」
菫の顔にビンタをする。それは重い一撃ではない。むしろこの場にそぐわないぐらい軽めなビンタだ。
でも、それでいい。感情を揺さぶられ、自信を失いつつある相手は、弱い攻撃でも十分すぎる効果がある。マイナス思考が勝手に痛みを増幅させるのだ。
「うう……」
現に菫は頬を手で押さえた。赤く腫れあがってもいないのに、である。神通力が効いている証だ。
(ま、相手を自殺させるぐらい真っ暗にできるけど…。この子にはそこまでする必要はないわね……。だってもう、終わりじゃないのよ?)
牧野は勝利を確信する。何故ならさっきの一撃で菫は、地面に倒れこんでしまったのだ。
「ねえどうしたの? もう終わり? 詰まらない子ね…」
勝利を確実なものとするために、捨て台詞でさらに追い込む。菫は反論できない。
(勝ったわ。私からすれば楽勝よ………ん?)
立ち去ろうとしたその時、牧野の足を何かが掴んだ。
「そ、そんな馬鹿なことが!」
菫だ。地べたを這いつくばって牧野の足元まで動き、そして足首を捉えたのである。しかし、牧野の神通力をくらった彼女にはもうそんなに動ける精神力がなかったはずだ。何故動くことができたのだろうか?
「こ、こんなところで負けるなんて……恥ずかしくて縁君に顔向けできないわ! 意地でもあんたを倒して、私はぁ、勝つ!」
牧野は倒れた。菫が手に力を加えて、そして思いっ切り引っ張ったからバランスを崩されて。それに加えて、あり得ない光景を目の当たりにし、腰が抜けたから。
「あ、あ、あ、あり得ないわ! もうあんたには、まともな思考をする感情が残っていないはず! なのにどうして動けるのよ?」
「簡単よそんなこと。縁君のためなら、頑張れる。自分の限界を突き破ってでも、必ず期待に応えてみせる! そう考えると勇気が湧いてくる!」
そして、その勇気が菫のことを立たせた。形勢逆転。さっきまで立っていた牧野は今、尻餅をついている。倒れていたはずの菫が、牧野を見下すように立っている。
「よくも私の心を覗いたわね? もう容赦しないわよ……。見てなさい!」
菫は牧野の足を掴むと、勢いよく持ち上げる。
「ま、待って! 心を覗くのは私の神通力じゃないわ! 感情を揺さぶるだけよ? 勝手に被害を付け足さないで!」
そんな命乞いが聞き入れられるわけもなく、菫は、
「関係ないわ、どっちみち!」
牧野と共に投げ捨てる。投げられた牧野は、橋げたに叩きつけられた。
「ふにゃ~~~…」
すごい一撃だったので、もう立ち上がれないだろう。神通力者でなければ即死するレベルだ。