その②

文字数 2,991文字

 四人は学校を出た。向かった先は、東邦大会の支部が入っているビルだ。これから堂々と宣戦布告するのだ。
 しかし、その行く手を阻む者が一人。

「おや、縁様ですね。早速ですが……」

 今日の朝、縁に話しかけた構成員の柳田だ。彼は懐に手を突っ込むと、拳銃を取り出した。そして銃口を縁に向け、その引き金を何の躊躇いもなく引いた。
 バン、という音がした。

「危ないな、いきなりぶち込んでくるなんて、どういうご挨拶なんだ?」

 烽がそう言って前に出ようとしたが、縁が止めた。

「大丈夫だ、烽…。これぐらい僕でも止められるよ」

 何と縁は左手で、弾丸を掴んだ。何という素早くそして精密な動きだろうか。しかし、神通力者ならできて当たり前のこと。それは柳田も十分わかっている。

「これは確認ですよ。縁様が本当に神通力者であるのかどうかのね。そしてその弾を受け止めたと言うのなら、戦う意思は動かないわけですね…?」
「当然だよ。僕は逃げたりはしない。逆だ。東邦大会が迫りくると言うのなら、逆に打ち倒してやる!」

 縁がそう言ったのを聞くと、柳田は走り出した。

「では、遠慮なく!」

 柳田も神通力者なのだ。口を大きく開けて縁に噛みつこうとする。しかし、速いとはいえ読めない動きではない。縁はその向き出された歯にパンチした。一撃で歯が何本か、砕けて折れる。

「うごご、身体能力も素晴らしいわけですか…」
「そうだ。手加減はしない。鍍金、烽、菫、手を出すな…! 今手を加えなければ、君らは東邦大会にまだ睨まれているわけじゃない!」

 縁からすれば、友達を危険に巻き込むのはできれば最後まで避けたいのだ。だが、

「でも、ですよ、縁君…。既に僕らは囲まれているんです!」

 柳田も馬鹿ではない。襲撃すると決めたら、手下を引き連れて来るに決まっている。この瞬間のために動員された一般構成員であり神通力はないが、数だけ見れば縁が絶望するには十分すぎる。

「でしたら……僕らもやりますよ! さあ烽君、菫さん、準備はいいですか?」
「任せな」
「いつでも」

 複数いるチンピラたちはバットやメリケンサックなんかを持っている。対して鍍金たちは素手。普通なら誰もが、かてるわけがないと思うだろう。しかし彼ら三人は、神通力者なのだ。

「まずは、一撃です! くらえ!」

 鍍金が手を広げると、指と指の間から電気が生じ、そしてチンピラ目掛けて稲妻が走った。

「うぐええええ?」

 一撃で、痺れて動けなくなるチンピラ。これが鍍金の神通力。電気を自在に生み出して、そして操ることが可能。

「コイツ…やっちまえ!」

 複数のチンピラが鍍金を取り囲む。だが空しく、鍍金が放電すると全員感電し、バタリバタリと倒れていく。

「そうれ!」

 後ろの方にいたチンピラは、瓶を鍍金に投げつけた。

「これは…!」

 火炎瓶だ。鍍金を焼き殺そうという発想。

「なるほど…。でも僕には通じません!」

 鍍金が自分の体に電気を流す。すると火炎瓶が放った火が瞬く間に消えていく。

「な、何!」
「火は、電気的な現象と言えます。だから僕は、火をつけることはできませんが、その逆…。消すこと、無力化することはできるんです。僕に炎は通じませんよ!」

 そこが、縁が鍍金を自分のブレーキ役に選んだ点だ。神通力を使った勝負になると、縁は鍍金には絶対に勝てない。相性が非常に悪いためだ。

「く、クソー! おいお前ら、やっちまえ!」

 数に物を言わせてチンピラたちは一斉に、鍍金や烽、菫に襲い掛かる。だが彼らは自分の神通力を使い、難なく突破してみせる。

「東邦大会の構成員は、みんな弱そうだね…。もしかして、柳田さんも弱かったりして?」
「そうでしょうか? では……」

 なんと、柳田の折れた歯が全て抜け落ちた。そして新しい歯が、すぐに生え揃う。

「これが私の神通力なのですよ。サメと同じく、何度でも歯を生やすことが可能! これでまた、噛みつけますね……」

 弱そうな神通力だが、神通力が全て戦闘向きとは限らない。柳田のそれは生活面で活躍できる力だ。それを強引に、戦闘面で輝かせようとしている。

「行きますよ…!」
「来るか!」

 縁は構えた。やはり柳田は口を開けて、襲い掛かってくる。

「それっ!」

 何かが柳田の方から、縁の額に飛んできた。

「わ、何だ?」

 勢いよくぶつかったそれによって、縁は体勢を崩してしまった。
 歯だ。柳田は歯を飛ばしたのだ。歯を無限に生え変わらせることができるが故に、飛び道具として使うことも可能なのだ。そして飛ばした部分の歯は、瞬く間もなくすぐに新しいのが生えてくる。

「今だ!」

 そして縁の腕に、柳田は噛みついた。神通力者故に噛む力は強い。下手をすれば、肉を引きちぎることだってできるのだ。だが今回は、噛みついた後思いっきり振り回す。そして顎を開いて縁を宙に放り投げた。

「うわあああ!」

 柳田は追撃を仕掛ける。口を開けてまた、歯を飛ばすのだ。

「フフフ……!」

 一発一発が、弾丸よりも速くて鋭い。皮膚をえぐられ、縁は血を流した。

「だが!」

 ここで、神通力を使うのだ。自分の真下に炎を生み出した。

「何と!」

 撃ち出される歯は、この炎でシャットアウトできる。そして縁は落ちながら、さらに炎を生み出す。手のひらにテニスボール大の火の玉を作ると、柳田に見えないように隠す。
 やがて、縁の体は柳田に迫る。柳田も馬鹿ではないので、落下するところから少し移動する。

(狙うは、着地してからでしょう? こんなガキは歯を撃ち飛ばして、片付けられる!)

 だがその考えは、成功しないのだ。
 縁は地面に着地すると同時に火の玉を、歯を発射しようと構えている柳田の口の中に放り込んだ。

「うっがあああああーー!」

 火は体内に侵入させない。ただ、口の中を燃やすだけだ。

「あううううう!」

 口を閉じれば、空気が供給されなくなるので火は消える。しかし尋常ではない熱さで、中々閉じることができない。

「どうだ!」

 数秒もすれば、柳田の口腔内はボロボロになった。

「こ、こんあ、あかな……」

 まともに喋ることすらできない無様な姿。これでは歯を生やすこともできない。そうしたら、焼かれた口の中に激痛が走るからだ。

「お、おい……。柳田様が負けたぞ?」
「に、逃げろー!」

 残ったチンピラたちは負けを悟ると、逃げて行った。

「おい待ちやがれ!」

 烽が追いかけようとしたが、縁がやめさせた。

「放っておこう。彼らでは僕らには勝てないからね。でも柳田だったな? コイツは警察に突き出そう」

 携帯電話を取り出すと、縁は通報した。そして駆け付けた警官に柳田と残されたチンピラたちは逮捕され、署に連行された。


 柳田が逮捕されたことは、刑事施設に身柄を移された松平の耳にも届いた。

「始まったか…」

 松平はこの時を、前から予知していた。東邦大会の、終わりの始まり。最初はあっけないのだ。そして最後も。

「多分、丙警部の息子の仕業だろう。柳田が逮捕…つまりは死んでいないってことは、そういうことだ…」
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